・・・回答者の、ポスター・バリューのある似顔が程よく入れられていて、川路龍子、獅子文六、小野佐世男その他にまじって三笠宮崇仁親王という公式の名で、回答がのせられている。の答えは、小学四年生のとき母に愛のこころをこめて送った書簡が最初のラヴ・レター・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・そして、私の忠実な僕の芸術家達は、巫女のような洞察で天と人類とのゆきさつを感じ、様々な形で生存の真髄を書きとめ刻みつけ彩って行くのです。……さあ、それでは出かけて、もう一まわり、独特な鼓舞で励ましておやり。仕事は辛い。なかなか容易には捗取ら・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・がうまかろとむぎわらざいくのそのような青いせなもつ火取虫ガスのまわりをブンブンと羽根のたっしゃをほこるよう小供がうちわでおっかけた小さい火取は斯う云った「何んて云うおなまな御子だろう貴方に羽根はありますか・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
・・・ くつろいだ様子をして絵巻物を見て居た光君は、はばかるようにおもはゆげに誰にともなく云うと、わきに居た髪の美くしい年まがうけとって、「エエ、そうでございます、大奥様の御妹子の御子で御両親に御分れなさってからこちらに御出になって居るん・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・第二の女 法王様は神の御子だと聞いた事がございますわ。それで人なみ以上の御力をお持ちだと――若しお二人の間にお争いでも起ったら悲しい事だけれ共勝は法王様にお譲りなさらなければならないでございましょうよきっと――第三の女 この立派な御・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・この時佐橋甚五郎は若武者仲間の水野藤十郎勝成といっしょに若御子で働いて手を負った。年の暮れに軍功のあった侍に加増があって、甚五郎もその数に漏れなんだが、藤十郎と甚五郎との二人には賞美のことばがなかった。 天正十一年になって、遠からず小田・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
・・・ 今年の暮には、西丸にいた大納言家慶と有栖川職仁親王の女楽宮との婚儀などがあったので、頂戴物をする人数が例年よりも多かったが、宮重の隠居所の婆あさんに銀十枚を下さったのだけは、異数として世間に評判せられた。 これがために宮重の隠居所・・・ 森鴎外 「じいさんばあさん」
・・・何ぜなら、コルシカの平民ナポレオンが、オーストリアの皇女ハプスブルグのかくも若く美しき娘を持ち得たことは、彼がヨーロッパ三百万の兵士を殺して贏ち得た彼の版図の強大な力であったから。彼はルイザを見たと同時に、油を注がれた火のようにいよいよロシ・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
出典:青空文庫