・・・そうなっては、大変である――三人の忠義の侍は、皆云い合せたように、それを未然に惧れた。 そこで、彼等は、早速評議を開いて、善後策を講じる事になった。善後策と云っても、勿論一つしかない。――それは、煙管の地金を全然変更して、坊主共の欲しが・・・ 芥川竜之介 「煙管」
・・・では、その大事を未然に防ぐには、どうしたら、いいであろうか。この点になると、宇左衛門は林右衛門ほど明瞭な、意見を持っていないようであった。恐らく彼は、神明の加護と自分の赤誠とで、修理の逆上の鎮まるように祈るよりほかは、なかったのであろう。・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・若しこれらの信者が、本当に正義の観念に燃え、真理のために尽していたなら、今度の欧洲戦争の如きも未然に防ぐことが出来たであろう。またロシアの饑饉に対し、オーストリー・ハンガリーの饑饉に対し、若しくは戦後のドイツに対して世界人類の取るべき手段は・・・ 小川未明 「反キリスト教運動」
・・・市井の流行風俗、生活状態のようなものはもちろん、いろいろな時代思潮のごときものでも、すぐれた作者の鋭利な直観の力で未然に洞察されていた例も少なくないであろう。未来の可能性は、それがどんなに現在の凡人に無稽に見えても実は現在の可能性のほんのわ・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ こんなに度々繰返される自然現象ならば、当該地方の住民は、とうの昔に何かしら相当な対策を考えてこれに備え、災害を未然に防ぐことが出来ていてもよさそうに思われる。これは、この際誰しもそう思うことであろうが、それが実際はなかなかそうならない・・・ 寺田寅彦 「津浪と人間」
・・・ 台風の襲来を未然に予知し、その進路とその勢力の消長とを今よりもより確実に予測するためには、どうしても太平洋上ならびに日本海上に若干の観測地点を必要とし、その上にまた大陸方面からオホツク海方面までも観測網を広げる必要があるように思われる・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・ 若しその朋友が、秀でた叡智と洞察とを以て人間を見得る人なら、事は未然に防がれると同時に、自己の進退を弁えていましょう。 けれども、人間は、必ずいつも正義によって行動するものとは定っていません。 その人が、それによって自分を愛し・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・ 従って、第一回の恐ろしい失敗は或る程度まで未然に防がれた可能があり、同時に幾年かのより長い経験で裁縫なら裁縫の技術が練磨されたと共に今回のような不幸に遭遇しても、全く、人間としての希望の上に立って、根底ある生活を持続し得る信念を与えら・・・ 宮本百合子 「ひしがれた女性と語る」
出典:青空文庫