・・・色が白いから、それでも可成りの美少年に見える。身長骨骼も尋常である。頭は丸刈りにして、鬚も無いが、でも狭い額には深い皺が三本も、くっきり刻まれて在り、鼻翼の両側にも、皺が重くたるんで、黒い陰影を作っている。どうかすると、猿のように見える。も・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・仕事の邪魔になるから、宿へ来るなって言われたので、そのうちお仕事がすんでから、みんなで御岳へ遊びに行くんだ、とそう言っていましたよ。」「そうか。そんな、ばかなこと私が言ったのかねえ。仕事のほうは、どうにでも都合がつくのだから、御岳へでも・・・ 太宰治 「新樹の言葉」
・・・そんなに絢爛たる面貌にくらべて、四肢の貧しさは、これまた驚くべきほどであった。身長五尺に満たないくらい、痩せた小さい両の掌は蜥蜴のそれを思い出させた。佐竹は立ったまま、老人のように生気のない声でぼそぼそ私に話しかけたのである。「あんたの・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・ずいぶん痩せ細っているようであったけれども身丈は尋常であったし、着ている背広服も黒サアジのふつうのものであったが、そのうえに羽織っている外套がだいいち怪しかった。なんという型のものであるか私には判らぬけれども、ひとめ見た印象で言えば、シルレ・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・けれども私の身長は五尺六寸五分であるから、街を普通に歩いていても、少し目立つらしいのである。大学の頃にも、私は普通の服装のつもりでいたのに、それでも、友人に忠告された。ゴム長靴が、どうにも異様だと言うのである。ゴム長は、便利なものである。靴・・・ 太宰治 「服装に就いて」
・・・噂に拠れば、男女川はその身長に就いての質問を何よりも恐れるそうである。そうして自分の実際の身長よりも二寸くらい低く言うそうである。つまり、大男の自分を憎悪しているのである。自己嫌悪、含羞、閉口しているのであろう。必ずや神経のデリケエトな人に・・・ 太宰治 「男女川と羽左衛門」
・・・けれども、三夜の身悶えの果、自分の身長が足りない事に気がつき、断念した。兄妹のうちで、ひとり目立って小さかった。四尺七寸である。けれども、決して、みっともないものではなかった。なかなかである。深夜、裸形で鏡に向い、にっと可愛く微笑してみたり・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・ カルネラは体重一一九キロ身長二・〇五メートル、ベーアは九五キロと一・八八メートルだそうで、からだでは到底相手になれないのである。 しかし闘技中にカルネラは前後十二回床に投げられた。そのうちの一回では踝をくじかれ、また鼻をも傷つけら・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・鳥の大きさが仮定できれば単に仰角と鳥の身長の視角を測るだけで高さがわかるし、ストップ・ウォッチ一つあればだいたいのテンポはわかる。熱心な野鳥研究家のうちにもしこの実測を試みる人があれば、その結果は自分の仮説などはどうなろうとも、それとは無関・・・ 寺田寅彦 「疑問と空想」
・・・ こういう種類の競技には登場者の体重や身長を考慮した上で勝敗をきめるほうが合理的であるようにも思われるが、そうしないところを見ると結局強いもの勝ちの世の中である。 食いしんぼうのレコード保有者でも少し風変わりなのは、パリのムシウ・シ・・・ 寺田寅彦 「記録狂時代」
出典:青空文庫