・・・ それと同時に、私の身丈の倍でもきかない様な、濃い、黒藍の、すき透る様な、すごく光る屏風が、上えの方に白い線をのせて目の前に立つと、その上の方が、段々と下を向いて来て、終に、砂の上にひどい音と共にめちゃめちゃに砕ける。 その凄い屏風・・・ 宮本百合子 「冬の海」
・・・ここでは妙に身丈の縮小したように見えるロンドン人が山高帽の波を打たせて右往左往やっている。一つの騎馬像が人間波浪から突立って見えた。英蘭銀行の八本の大円柱がこの三角州の上で堂々と塵をかぶりつつ、翼を拡げている。 貧乏人町東端の方からやっ・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・ 一人は五十前後だろう、鬼髯が徒党を組んで左右へ立ち別かれ、眼の玉が金壺の内ぐるわに楯籠り、眉が八文字に陣を取り、唇が大土堤を厚く築いた体、それに身長が櫓の真似して、筋骨が暴馬から利足を取ッているあんばい、どうしても時世に恰好の人物、自・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫