・・・九月の生産予定計画を我々は七五パーセントしかみたすことが出来なかった。ところが十月は二十日間に予定の七一パーセントをみたした。組合員諸君及集団農民諸君! このテンポをおとすな!」そしてバタ生産に関する農村通信員の面白い批判が掲載されている。・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・それは現実があまり切迫して、早い速力で遷って行くから、一つの行動の必要が起ったとき、その意味や価値をじっくり自分になっとく出来るまで考えているゆとりがなくて、ともかく眼の前の必要を満たすように動かなければならないということではないだろうか。・・・ 宮本百合子 「あとがき(『幸福について』)」
・・・そして、選集第八巻、九巻をみたすこととなった。 こんにち、これらの文章をよむと作者自身を感動させる素直さと、正直さが全篇にあふれている。三十一、二歳だった一人の女として、ある程度文学の仕事に経験を重ねている作家として、中條百合子は、全身・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)」
・・・十九世紀は、その興隆する資本主義社会の可能性で、偉大な人間才能を開花させたのであったが、いまやそろそろ地球をみたす人間社会により広汎な人間性を解放する民主の形態が出来て、新しい世紀の本質的に一歩発展し前進した精華が輝きだそうとしている。真に・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・学生や職場の大衆が知識欲をみたすための罪のないサークルや読書会をもっても二十九日、又それをむしかえしての拘留を食う。 留置場に長くいればいるほど、権力の手のこんだ専暴と、人民は無権利であることを切々と感じる。 初めて留置場へぶち込ま・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ この発言は、一九四七年の二・一ストとよばれている時期の前後に日本の勤労生活者の文化水準は半封建的でおくれているから、文学の創造をいうよりもダンスが直接にそれらの人々の文化欲求をみたすものであるという考えが一部におこった。この期間、実際・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ プロレタリア文学団体は、この年の二月解消の余儀なきに至ったが、『文化集団』、ナウカ社から発行されていた『文学評論』等は、相当の活気をもって、大衆の生活から湧き上る文学的要求を満たす力を有していた。当時の微妙な情勢は、従来のプロレタリア・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・女性に同情はしながらも、その解放の為に叫びながらも、衷心の不満を押えられないで居る男子が、兎に角、自分というものを持って、ピチピチとはねる小魚のように生きて居るこちらの婦人は、満たされない或物を同様に満たす或物を持って居るのは争えない事実で・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ 菊池寛によってかかれた天女が、男の肉情をみたすことだけは知っていたというのは、何と皮肉なようなことだろう。菊池寛にそのようなものとして描き出された天女が、諸国にすまってきずなは地にあこがれは空に冬すぎ春来て暮すうち、い・・・ 宮本百合子 「『静かなる愛』と『諸国の天女』」
・・・ 母の書を思い遣る時、自ずから、彼女の胸を満たす、無限に静穏な感謝が、鎮まった夜の空気に幽にも揺曳して、神の眠りに入った額へ、唇へ漂って行きそうな心持がした。 愛する者よ、我が愛するものよ、 斯う呼ぶ時、自分は彼という一つの明か・・・ 宮本百合子 「樹蔭雑記」
出典:青空文庫