・・・すなわちLという頭字をもった三人の人たちは個人的な権勢の欲望に害されることのなかった無私な人たちだった。革命的指導者の最大の徳義は、世界とその国の客観的情勢を自分がそれを好都合と感じるか、感じないかということにかかわらず、革命の課題にそって・・・ 宮本百合子 「三つの愛のしるし」
・・・何故なら、コンミニズム文学は、文学としての発展段階を無視したる文学形式であるからだ。彼らはその理想さえ主張出来得れば、曾て犯した唯心論的文学の古き様式をさえも、唯々諾々として受け入れているではないか。そこで、彼らは、文学の圏内に於ては、ただ・・・ 横光利一 「新感覚派とコンミニズム文学」
・・・湯は色の好みのために温かさを無視せられている。女の体には湯に温まったという感じがまるでない。白い柔らかさは抽出せられているが、中に血の通っている、しなやかな、生に張り切った実質の感じは、全然捨て去られている。全体を漠然と描いておいて、処々に・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・そうしてこの心がけがやがて人生全体に対して公平無私であろうとする先生の努力となって現われた。五 先生が偏屈な奇行家として世間から認められているのは、右のような努力の結果である。ひいき眼なしに正直に言って、先生ほど常識に富んだ・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
出典:青空文庫