・・・組員は名義人に注意した。名義人は下請に文句を言った。 下請は世話役に文句を云った。世話役が坑夫に、「もっと調子よくやれよ。八釜しくて仕様がないや」「八釜しい奴あ、耳を塞いどけよ」「そうじゃねえんだ。会社がうるせえんだよ」・・・ 葉山嘉樹 「坑夫の子」
・・・又事実に於ても古来大名などが妾を飼うとき、奥方より進ぜらるゝの名義あり。男子が醜悪を犯しながら其罪を妻に分つとは陰険も亦甚だし。女大学の毒筆与りて力ありと言う可し。第三婬乱なれば去ると言う。我日本国に於て古来今に至るまで男子と女子と孰れが婬・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・これを生み、これを養い、これを教えて一人前の男女となし、二代目の世において世間有用の人物たるべき用意をなし、老少交代してこそ、始めて人の父母たるの名義に恥ずることなきを得べきなり。 故に子を教うるがためには労を憚るべからず、財を愛しむべ・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・ そもそも維新の事は帝室の名義ありといえども、その実は二、三の強藩が徳川に敵したるものより外ならず。この時に当りて徳川家の一類に三河武士の旧風あらんには、伏見の敗余江戸に帰るもさらに佐幕の諸藩に令して再挙を謀り、再挙三拳ついに成らざれば・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・そしてロシアの進歩的な若い娘が旧式な親たちの望まない知識と社会的自由を手に入れる特別な方法として選んだ名義だけの理想結婚をして、ドイツへ行き、この頃はハイデルベルヒ大学やベルリンで数学の勉強をしていた。 又、彼女が「野獣」と呼ぶようにし・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
出典:青空文庫