・・・ その声に応じて出て来たのは、美しい支那人の女の子です。が、何か苦労でもあるのか、この女の子の下ぶくれの頬は、まるで蝋のような色をしていました。「何を愚図々々しているんだえ? ほんとうにお前位、ずうずうしい女はありゃしないよ。きっと・・・ 芥川竜之介 「アグニの神」
・・・ あすこの女の子が轢かれる所だったんです。」「その子供は助かったんだね?」「ええ、あすこに泣いているのがそうです。」「あすこ」というのは踏切りの向う側にいる人だかりだった。なるほど、そこには女の子が一人、巡査に何か尋ねられていた・・・ 芥川竜之介 「寒さ」
・・・切禿で、白い袖を着た、色白の、丸顔の、あれは、いくつぐらいだろう、這うのだから二つ三つと思う弱々しい女の子で、かさかさと衣ものの膝ずれがする。菌の領した山家である。舞台は、山伏の気が籠って、寂としている。ト、今まで、誰一人ほとんど跫音を立て・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・ 途中から女の子に呼戻させておいて、媼巫女、その孫八爺さんに命ずるがごとくに云って――方角を教えた。 ずんぐりが一番あとだったのを、孫八が来て見出したとともに、助けたのである。 この少年は、少なからぬ便宜を与えた。――検する官人・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・自分の子でさえ親の心の通りならないで不幸者となり女の子が年頃になって人の家に行き其の夫に親しくして親里を忘れる。こんな風儀はどこの国に行っても変った事はない。 加賀の国の城下本町筋に絹問屋左近右衛門と云うしにせあきんどがあった。其の身は・・・ 著:井原西鶴 訳:宮本百合子 「元禄時代小説第一巻「本朝二十不孝」ぬきほ(言文一致訳)」
・・・ 十二、三歳の女の子がそとから帰って来て、「姉さん、駄賃おくれ」と、火鉢のそばに足を投げ出した。顔の厭に平べッたい、前歯の二、三本欠けた、ちょっと見ても、愛相が尽きる子だ。菊子が青森の人に生んで、妹にしてあると言ったのは、すなわち、・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・それから比べると、文壇では大家ではないが、或る新聞小説家が吉原へ行っても女郎屋へ行かずに引手茶屋へ上って、十二、三の女の子を集めてお手玉をしたり毬をついたりして無邪気な遊びをして帰るを真の通人だと称揚していた。少くも緑雨は遊ぶ事は遊んでもこ・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・その子は女の子であったのです。そして胴から下のほうは、人間の姿でなく、魚の形をしていましたので、おじいさんも、おばあさんも、話に聞いている人魚にちがいないと思いました。「これは、人間の子じゃあないが……。」と、おじいさんは、赤ん坊を見て・・・ 小川未明 「赤いろうそくと人魚」
・・・しかし人間の子でなくても、なんというやさしい、可愛らしい顔の女の子でありましょう」と、お婆さんは言いました。「いいとも何んでも構わない、神様のお授けなさった子供だから大事にして育てよう。きっと大きくなったら、怜悧ないい子になるにちがいな・・・ 小川未明 「赤い蝋燭と人魚」
・・・娘は終にその俳優の胤を宿して、女の子を産んだそうだが、何分にも、甚だしい難産であったので、三日目にはその生れた子も死に、娘もその後産後の日立が悪るかったので、これも日ならずして後から同じく死んでしまったとの事だ。こんな事のあったとは、彼は夢・・・ 小山内薫 「因果」
出典:青空文庫