・・・ 曙覧の歌、四になる女の子を失いてきのふまで吾衣手にとりすがり父よ父よといひてしものを 父の十七年忌に今も世にいまされざらむよはひにもあらざるものをあはれ親なし髪しろくなりても親のある人もおほかるものをわれは・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・ひとりのいちょうの女の子が空を見あげてつぶやくようにいいました。「あたしだってわからないわ、どこへもいきたくないわね。」もひとりがいいました。「あたしどんなめにあってもいいから、おっかさんとこにいたいわ。」「だっていけないんです・・・ 宮沢賢治 「いちょうの実」
・・・また毎年じぶんの土地から十石の香油さえ穫る長者のいちばん目の子も居たのです。 けれども学者のアラムハラドは小さなセララバアドという子がすきでした。この子が何か答えるときは学者のアラムハラドはどこか非常に遠くの方の凍ったように寂かな蒼黒い・・・ 宮沢賢治 「学者アラムハラドの見た着物」
・・・男の子も女の子も十六七になれば、食べるものも着るものも大人なみである。本だって沢山よみたいし、運動もしたい。ソヴェト同盟には工場図書館、スポーツ・サークルが発達していて、大体無料でいろいろのことができるが、食物、衣服はまだ無料とはゆかない。・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・今年二十一歳になる数馬のところへ、去年来たばかりのまだ娘らしい女房は、当歳の女の子を抱いてうろうろしているばかりである。 あすは討入りという四月二十日の夜、数馬は行水を使って、月題を剃って、髪には忠利に拝領した名香初音を焚き込めた。白無・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・文政五年は午であるので、俗習に循って、それから七つ目の子を以てわたくしの如きものが敢て文を作れば、その選ぶ所の対象の何たるを問わず、また努て論評に渉ることを避くるに拘らず、僭越は免れざる所である。 ―――――――――・・・ 森鴎外 「細木香以」
・・・心の臓も浄くなったので、いろんな事を思い出して、そして生れたと云うばかりで、男の子だか女の子だか知らない子を、どうかして見たいものだと思った。 浄火の中を巡って歩いて、何か押丁に対する不平があるなら言えという役人がある。ある時その役人に・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
・・・すると、幌の中からは婦人が小さい女の子を連れて降りて来た。「いらっしゃいませ。今晩はまア、大へんな降りでこざいまして。さア、どうぞ。」 灸の母は玄関の時計の下へ膝をついて婦人にいった。「まアお嬢様のお可愛らしゅうていらっしゃいま・・・ 横光利一 「赤い着物」
・・・見ると質朴な田舎者らしい老人夫婦や乳飲み児をかかえた母親や四つぐらいの女の子などが、しょんぼり並んで腰を掛けている。朝からそのままの姿でじっとしていたのではないかと思わせるくらい静かに。その眼には確かに大都会の烈しさに対する恐怖がチラついて・・・ 和辻哲郎 「停車場で感じたこと」
出典:青空文庫