・・・どんなに汚ないお女郎屋へも泊った。いや、わざと汚ない楼をえらんで、登楼した。そして、自分を汚なくしながら、自虐的な快感を味わっているようだった。 しかし、彼とても人並みに清潔に憧れないわけではない。たとえば、銭湯が好きだった。町を歩いて・・・ 織田作之助 「四月馬鹿」
・・・「女子大出だって芸者だってお女郎だって、理窟を言おうと言うまいと、亭主を莫迦にしようとしまいと、抱いてみりゃア皆同じ女だよ」私は一合も飲まぬうちに酔うていた。「あんたはまだ坊ン坊ンだ。女が皆同じに見えちゃ良い小説が書けっこありません・・・ 織田作之助 「世相」
・・・鸚鵡の持ち主はどんな女だか知らないがきっと、海山千年の女郎だろうと僕は鑑定する。」「まアそんな事だろう、なにしろ後家ばあさん、大いに通をきかしたつもりで樋口を遊ばしたからおもしろい、鷹見君のいわゆる、あれが勝手にされてみたのだろうが、鸚・・・ 国木田独歩 「あの時分」
・・・上等兵は、その写真を手に取って、彼の顔を見ながら、にや/\笑った。女郎の写真を彼が大事がっているのを冷笑しているのだが、上等兵も街へ遊びに出て、実物の女の顔を知っていることを思うと、彼はいゝ気がしなかった。女を好きになるということは、悪いこ・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・ロシア人の馬車を使って、五割の頭をはねた。女郎屋のおやじになった。森林の利権を買って、それをまた会社へ鞘を取って売りつけた。日本軍が撤退すると、サヴエート同盟の経済力は、シベリアにおいても復旧した。社会主義的建設が行われだした。シベリアで金・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・ ついさき頃まで熱心に通っていた女郎のことなど、けろりと忘れてしまって、そんなことを頻りに話していた。「俺れゃ、家へ帰ったら、早速、嚊を貰うんだ。」シベリアへ志願をして来た福田も、今は内地へ帰るのを急いでいた。「露西亜語なんか分らな・・・ 黒島伝治 「雪のシベリア」
・・・と唱い終ると、また他の一人が声張り上げて、桑を摘め摘め、爪紅さした 花洛女郎衆も、桑を摘め。と唱ったが、その声は実に前の声にも増して清い澄んだ声で、断えず鳴る笛吹川の川瀬の音をもしばしは人の耳から逐い払っ・・・ 幸田露伴 「雁坂越」
・・・川岸女郎になる気で台湾へ行くのアいいけれど、前借で若干銭か取れるというような洒落た訳にゃあ行かずヨ、どうも我ながら愛想の尽きる仕義だ。「そんな事をいってどうするんだエ。「どうするッてどうもなりゃあしねえ、裸体になって寝ているばかりヨ・・・ 幸田露伴 「貧乏」
・・・私は尚も言葉をつづけて、私、考えますに葛の葉の如く、この雪女郎のお嫁が懐妊し、そのお腹をいためて生んだ子があったとしたなら、そうして子供が成長して、雪の降る季節になれば、雪の野山、母をあこがれ歩くものとしたなら、この物語、世界の人、ことごと・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・淫乱だ。女郎だ。みんなに言ってやる。ようし、みんなに言ってやる。清蔵さん、お待ちなさい。何をなさる。気が狂ったか、糞婆め。(庖丁を取り上げ、あさを蹴倒お母さん! つらいわよう。聞いていました。立聞きして悪いと思ったけど、お前・・・ 太宰治 「冬の花火」
出典:青空文庫