・・・もしこの世の中に、彼等を心から愛する、文学者、芸術家、若くは真理に忠実な科学者がなかったら、何人か、このものいわぬ謙虚な動物に対して、擁護すべく注意を喚起したものがあったでしょう。多くの人間は、動物を人類に隷属するものの如く考えて来た。しか・・・ 小川未明 「天を怖れよ」
・・・ 私は、児童芸術に没頭していますが、真に、児童の世界を擁護し、児童のためにつくす施設に乏しいのを感ぜずにいられません。浅薄なイデオロギーによって、児童を在来の文化に囚えんとするもの、もしくは、政治的目的意識によって階級観念を植付けんとす・・・ 小川未明 「文化線の低下」
・・・大多数が支配階級の附属たり、また擁護者たることを甘んずるとしても、芸術家が正義の感激から、被搾取階級のために、戦わずして止むべきかは、一にその人の良心に依ることです。 芸術に於て、プロレタリアの作家の出現は、すでに必然の真理とします。た・・・ 小川未明 「街を行くまゝに感ず」
・・・という意味の進駐軍の用語である。 珈琲、ケーキ、イチゴミルク、エビフライ、オムレツ……。 運ばれて来るたびに、靴磨きの兄弟――「うわッ、うまそうやな」 と、唾をのみ込み咽を鳴らしながら、しかし、「――これ食べてもかめへん・・・ 織田作之助 「夜光虫」
・・・旋風の起るのも、目に見えぬ眷属が擁護して前駆するからの意味である。飯綱の神は飛狐に騎っている天狗である。 こういう恐ろしい飯綱成就の人であった植通は、実際の世界においてもそれだけの事はあった人である。 織田信長が今川を亡ぼし、佐木、・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・は先生が哲学上の用語に就て非常の苦心を費したもので「革命前仏蘭西二世紀事」は其記事文の尤も精采あるものである。而して先生は殊に記事文を重んじた。先生曰く、事を紀して読者をして見るが如くならしむるは至難の業である。若し能く記事の文に長ずれば往・・・ 幸徳秋水 「文士としての兆民先生」
・・・古典擁護に違いない。フランスの伝統を誇っているだけなんですよ。うっかり、だまされるところだった。」「いや、いや、」私は狼狽して、あぐらを組み直した。「そういう事は無い。」「秩序って言葉は、素晴しいからなあ。」少年は、私の拒否を無視し・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・それでもしこれが物理学の教科書か学術論文の中の文句であるとすれば当然改むべきはずであるが、随筆中の用語となると必ずしも間違いとは云われないかもしれない。紺屋の白袴、医者の不養生ということもあるが、物理の学徒等が日常お互いに自由に話し合う場合・・・ 寺田寅彦 「随筆難」
・・・これは普通字句の簡潔とか用語の選択の妥当性によるものと解釈されるようであるが、しかしそれよりも根本的なことは、書く事の内容の取捨選択について積まれた修業の効果によるのではないかと思われる。俳句を作る場合のおもなる仕事は不用なものをきり捨て切・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・このような不思議な世界に読者を導き入れるためには、特殊な手段を要することは勿論で、この種の作品がその資料を遠い過去や異郷に採るのみならず、その文体や用語に特別な選択をするを便利とする所以もまたここに在るのではあるまいか。 以上はただ典型・・・ 寺田寅彦 「文学の中の科学的要素」
出典:青空文庫