・・・一九三五年パリで行われた「文化擁護国際作家会議」でも、ジイドは作家としての「自分の中に持っているもので、自分には最も純正で、最も価値あり、最も健全であると思われるものが、すべて周囲の因習、習慣、虚偽と忽ち、そして直接に矛盾衝突した」、「思う・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・は日本訳もあって、多くの人々に愛読された作品であるが、その横溢的用語、色彩のつよい表現、強くて大きいリズム、叙事詩的形式などは、いかにも彼が南露のコサック生れであることを物語っている。同じ時代に発表されたロシア作家の作品でも、「赤色親衛隊」・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・このことは旧い用語での芸術至上の考えかたとは別である。 文学について、じっくりと生活に根ざし、痙攣的でない感覚と通念とがどんなに必要となっているかは、私たち皆の胆に銘じて来ていることだし、今日文学を読む千万人が感じている国民的真実の一つ・・・ 宮本百合子 「実感への求め」
・・・という観念とを直結した用語の方法のうちにこそ、一九五一年度の、日本人民の人権擁護の要石がむき出しにされている。幾百万の人々がよむ新聞で日ごと夜ごとに、「赤」という正に「言葉の魔術」を行い、平和のための行為までを犯罪めいたものと暗示すること自・・・ 宮本百合子 「修身」
・・・ 観念的な用語の上では一見非常に手がこんでいるように見えて、内実は卑俗なものへの屈従であるような現実把握の芸術化の過程に於ける分裂は、その頃「癩」「獄」等によって作家としての活動を始めた島木健作の芸術にも独自な姿で反映している。 石・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・そういう自然科学の一部門の用語である。「結婚の生態」と云うつなげかたも何か妙だが、そこにはその小説の作者が、結婚というごく社会的な内容の対象を、テーマの上では男の或る意味での平凡な旧套に立つエゴイスムの肯定として扱っている態度とどこか相通ず・・・ 宮本百合子 「生態の流行」
・・・そして、いまなお世界平和を語り、そのために努力をつづけようとしている者は、こんにちの世界で最もおくれて野蛮な用語の一つである「アカ」のやからだけであるという偏見が流布されるようになりはじめているのは、どういう理由だろう。アカという言葉を、戦・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・には、これまでの詩の華麗流麗な綾に代る人生行路難の暗喩がロマンティックな用語につつまれつつ、はっきり主体をあらわしている。「野路の梅」にも同じ傾きとして、浮薄な世間の毀誉褒貶を憤る心が沁み出ている。これは、『若菜集』によって、俄に盛名をあげ・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
・・・ミッション・プレス、その他切支丹関係の書類は、歴史的に興味深いばかりでなく、芥川氏が数篇の小説中に巧に活用し、その芸術的効果を高めているような一種独特な用語、文体で書かれているため、文学的な面白さも充分ある。「あるじぜすきりしと」「びるぜん・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・内容の範囲をひろげてつかわれているらしい伊藤整の衝動という用語をもって表現すれば、歴史に内包するこのような新しい文学への潜在的な衝動こそ、かえって多くの人間的欲求をもつ文学者の頭脳に反射作用し、逆に日本の知性への不信を表明させもしているのだ・・・ 宮本百合子 「人間性・政治・文学(1)」
出典:青空文庫