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・・・「当分ここにおったらええが、その中に良うなろうぜ。」 そう勘次が静に云うと、安次は急に元気な声で早口に、「すまんこっちゃ、すまんこっちゃ。」 と云いながら続けさまに叩頭した。勘次は落ちつけば落ちつく程、胸の底が爽やかに揺れて・・・
横光利一
「南北」
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・・・涙で声を詰まらせながら、酒に酔うたもののようにふらふらしながらこの老人は幾度も同じことを繰り返して造花を振り回しました。祖父は九十二歳まで生きたのです。そうしてこの祖父が生きていたことは、この界隈の老人連に対して、生命の保証のように感じられ・・・
和辻哲郎
「土下座」