・・・漢詩愛誦家の中にはママ諳んずるものもあるが、小説愛好者、殊に馬琴随喜者中に知るものが少ないゆえ抄録して以てこの余談を結ぶ。 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・遅いとは思ったが、初めて時間に気が付いて急いで座を起とうとすると、尚だ余談が尽きないから泊って行けといいつつ、「お客様の床も持って来てくれ」と吩咐けた。 二葉亭は談話が上手でもあったしかつ好きでもあった。が、この晩ぐらい興奮した事は珍ら・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・ 余談のようになりますが、私はいつだか藤村と云う人の夜明け前と云う作品を、眠られない夜に朝までかかって全部読み尽し、そうしたら眠くなってきましたので、その部厚の本を枕元に投げ出し、うとうと眠りましたら、夢を見ました。それが、ちっとも、何・・・ 太宰治 「小説の面白さ」
・・・大柄な色の白い子で、のんきそうにいつも笑って、この東北の女みたいに意地悪く、男にへんに警戒するような様子もなく、伊豆の女はたいていそうらしいけれど、やっぱり、南国の女はいいね、いや、それは余談だが、とにかくツネちゃんは、療養所の兵隊たちの人・・・ 太宰治 「雀」
創作余談、とでもいったものを、と編輯者からの手紙にはしるされて在った。それは多少、てれくさそうな語調であった。そう言われて、いよいよてれくさいのは、作者である。この作者は、未だほとんど無名にして、創作余談とでもいったものど・・・ 太宰治 「創作余談」
・・・芸術、もとこれ、不倫の申しわけ、――余談は、さて置き、萱野さんとは、それっきりなの? ああ、どのようなロマンスにも、神を恐れぬ低劣の結末が、宿命的に要求される。悪かしこい読者は、はじめ五、六行読んで、そっと、結末の一行を覗き読みして、ああ、・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
・・・無間奈落 押せども、ひけども、うごかぬ扉が、この世の中にある。地獄の門をさえ冷然とくぐったダンテもこの扉については、語るを避けた。余談 ここには、「鴎外と漱石」という題にて、鴎外の作品、なかなか正当に評価せら・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・ 余談はさておき、この書物の一章にアインシュタインの教育に関する意見を紹介論評したものがある。これは多くの人に色々な意味で色々な向きの興味があると思われるから、その中から若干の要点だけをここに紹介したいと思う。アインシュタイン自身の言葉・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・ これは余談であるが、一、二年前のある日の午後煙草を吹かしながら銀座を歩いていたら、無帽の着流し但し人品賤しからぬ五十恰好の男が向うから来てにこにこしながら何か話しかけた。よく聞いてみると煙草を一本くれないかというのである。丁度持合せて・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・ 余談ではあるが、西鶴の文章には、例えば馬琴などと比べて、簡単な言葉で実に生ま生ましい実感を盛ったものが多い。例えば、瑣末な例であるが『武道伝来記』一の四に、女に変装させて送り出す際に「風俗を使やくの女に作り、真紅の網袋に葉付の蜜柑・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
出典:青空文庫