・・・しかし何しろこれだけの事がその不思議な忍び男に関する唯一の知識なのですからね、何とかこれから予防策を考えなければなりません。あなたはどう御思いです。 ――別にこれと云って名案もありませんがとにかくその男が来るのは事実なのでしょう。 ・・・ 芥川竜之介 「青年と死」
・・・ 気の弱い寺田はもともと注射が嫌いで、というより、注射の針の中には悪魔の毒気が吹込まれていると信じている頑冥な婆さん以上に注射を怖れ、伝染病の予防注射の時など、針の先を見ただけで真蒼になって卒倒したこともあり、高等教育を受けた男に似合わ・・・ 織田作之助 「競馬」
・・・煩わせば姉さんにしかられまするは初手の口青皇令を司どれば厭でも開く鉢の梅殺生禁断の制礼がかえって漁者の惑いを募らせ曳く網のたび重なれば阿漕浦に真珠を獲て言うなお前言うまいあなたの安全器を据えつけ発火の予防も施しありしに疵もつ足は冬吉が帰りて・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・今度の火災については消防方面の当局者はもちろん、建築家、百貨店経営者等直接利害を感ずる人々の側ではすぐに徹底的の調査研究に着手して取りあえず災害予防方法を講究しておられるようであるが、何よりもいちばんだいじと思われる市民の火災訓練のほうがい・・・ 寺田寅彦 「火事教育」
・・・それを予防する人柱の代わりに、今のうちに京橋と新橋との橋のたもとに一つずつ碑石を建てて、その表面に掘り埋めた銅版に「ちょっと待て、大地震の用意はいいか」という意味のエピグラムを刻しておくといいかと思うが、その前を通る人が皆円タクに乗っている・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・ この母熊の肉は探険隊員のあまたの食卓をにぎわすと同時に隊員のビタミン欠乏症を予防する役に立った。子熊のほうはたぶんそのうちに東京の動物園に現われ檻の前の立て札には「従来捕獲されたる白熊の中にて最高緯度の極北において捕獲されたるものなり・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・ 要は、予報の問題とは独立に、地球の災害を予防する事にある。想うに、少なくもある地質学的時代においては、起り得べき地震の強さには自ずからな最大限が存在するだろう。これは地殻そのものの構造から期待すべき根拠がある。そうだとすれば、この最大・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・肺炎になってしまってからの愛児の看護に骨を折るよりも、風邪を引かせぬ予防法、引いたときに昂じさせぬ工夫に一倍の頭を使う方が合理的である。 凶作の原因は大体においては明白である。稲の正当な発育には一定量の日照並びに気温の積分的作用が必要で・・・ 寺田寅彦 「新春偶語」
・・・しかし日本では濃尾震災の刺戟によって設立された震災予防調査会における諸学者の熱心な研究によって、日本に相当した耐震建築法が設定され、それが関東震災の体験によって更に一層の進歩を遂げた。その結果として得られた規準に従って作られた家は耐震的であ・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・ 水道にせよ木煉瓦にせよ、つまりはそういう構造物の科学的研究がもう少し根本的に行き届いていて、あらゆる可能な障害に対する予防や注意が明白にわかっていて、そして材料の質やその構造の弱点などに関する段階的系統的の検定を経た上でなければ、だれ・・・ 寺田寅彦 「断水の日」
出典:青空文庫