・・・ やっと、海辺の町へ着いて、魚問屋や、漁師の家へいって聞いてみましたけれど、だれも、昨夜、雪の上に火を焚いていたというものを知りませんでした。そして、どこにもそんな大きなかにを売っているところはなかったのです。「不思議なことがあれば・・・ 小川未明 「大きなかに」
・・・だれか、打ちそこなったのだなと思っていると、そこへ猟師がやってきました。「いまごろ、おまえさんは、なにを釣っていなさるんだい。」と、猟師はききまました。「なんということはなしに、釣っているのです。」と、下男は答えました。「こんな・・・ 小川未明 「北の国のはなし」
・・・ ある日のこと、猟師たちが、幾そうかの小舟に乗って沖へ出ていきました。真っ青な北海の水色は、ちょうど藍を流したように、冷たくて、美しかったのであります。 磯辺には、岩にぶつかって波がみごとに砕けては、水銀の珠を飛ばすように、散ってい・・・ 小川未明 「黒い人と赤いそり」
・・・「私どもは貧乏で、お客さまにおきせする夜具もふとんもないのでございますが、せがれが猟師なもので、今夜は、どこか山の小舎で泊まりますから、どうぞそのふとんの中へ入ってお休みくださいまし。」と、二人はしんせつに、なにからなにまで、およぶかぎ・・・ 小川未明 「宝石商」
村に一人の猟師が、住んでいました。もう、秋もなかばのことでありました。ある日知らない男がたずねてきて、「私は、旅の薬屋でありますが、くまのいがほしくてやってきました。きけば、あなたは、たいそう鉄砲の名人であるということですが、ひと・・・ 小川未明 「猟師と薬屋の話」
・・・を書かない前から、僕は会う人ごとに、新人として期待できるのはこの人だけだと言って来たが、僕がもし雑誌を編輯するとすれば、まず、太宰、坂口の両氏と僕と三人の鼎談を計画したい。大井広介氏を加えるのもいい。 文学雑誌もいろいろ出て「人間」・・・ 織田作之助 「文学的饒舌」
・・・オレンジの混った弱い日光がさっと船を漁師を染める。見ている自分もほーっと染まる。「そんな病弱な、サナトリウム臭い風景なんて、俺は大嫌いなんだ」「雲とともに変わって行く海の色を褒めた人もある。海の上を行き来する雲を一日眺めているの・・・ 梶井基次郎 「海 断片」
・・・一同はこの松の下に休息して、なの字浦の方から来るはずになっていた猟師の一組を待ち合わせていた。 朝日が日向灘から昇ってつの字崎の半面は紅霞につつまれた。茫々たる海の極は遠く太平洋の水と連なりて水平線上は雲一つ見えない、また四国地が波の上・・・ 国木田独歩 「鹿狩り」
・・・ たった一軒の漁師の家がある、しかし一軒が普通の漁師の五軒ぶりもある家でわれら一組が山賊風でどさどさ入っていくとかねて通知してあったことと見え、六十ばかりのこの家の主人らしい老人が挨拶に出た。 夜が明けるまでこの家で休息することにし・・・ 国木田独歩 「鹿狩り」
・・・背後は一帯の山つづきで、ちょうどその峰通りは西山梨との郡堺になっているほどであるから、もちろん樵夫や猟師でさえ踏み越さぬ位の仕方の無い勾配の急な地で、さて前はというと、北から南へと流れている笛吹川の低地を越してのその対岸もまた山々の連続であ・・・ 幸田露伴 「雁坂越」
出典:青空文庫