・・・そこいらの漁師の神さんが鮪を料理するよりも鮮やかな手ぶりで一匹の海豹を解きほごすのであるが、その場面の中でこの動物の皮下に蓄積された真白な脂肪の厚い層を掻き取りかき落すところを見ていた時、この民族の生活のいかに乏しいものであるかということ、・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
・・・宿の主婦の育てていた貰い子で十歳くらいの男の子があったが、この子の父親は漁師である日鮪漁に出たきり帰って来なかったという話であった。発動機船もなく天気予報の無線電信などもなかった時代に百マイルも沖へ出ての鮪漁は全くの命懸けの仕事であったに相・・・ 寺田寅彦 「海水浴」
・・・天性の猟師が獲物をねらっている瞬間に経験する機微な享楽も、樵夫が大木を倒す時に味わう一種の本能満足も、これと類似の点がないとはいわれない。 しかし科学者と芸術家の生命とするところは創作である。他人の芸術の模倣は自分の芸術でないと同様に、・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・詳しいことは忘れたが、何でも庄屋になる人と猟師(加八になる人の外に、狸や猪や熊や色々の動物になる人を籤引きできめる。そこで庄屋になった人が「カアチ/\鉄砲打て」と命ずると、「カアチ」になった子が「何を打ちましょう」と聞く。そこで庄屋殿が例え・・・ 寺田寅彦 「追憶の冬夜」
・・・山下氏のでも梅原氏のでも、近頃のものよりどうしても両氏の昔のものの方が絵の中に温かい生き血がめぐっているような気がするのである。故関根正二氏の「信仰の悲み」でも、今の変り種の絵とはどうもちがった腹の底から来る熱が籠っていると思われる。すべて・・・ 寺田寅彦 「二科展院展急行瞥見記」
・・・また友人小宮豊隆・安倍能成両氏の著書から暗示を受けた点も多いように思われるのである。 なお拙著「蒸発皿」に収められた俳諧や連句に関する所説や、「螢光板」の中の天災に関する諸編をも参照さるれば大幸である。・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・物理学の範囲内だけでも近ごろ勢力を得て来た量子説が古典的な物理学と矛盾していて、まだどうしてもその間の融和がとれないところを見てもプランクの望むような統一はまだ急に達せられそうもない。 今のところでは生物界の現象に関しては物理学はたいて・・・ 寺田寅彦 「物理学と感覚」
・・・電気のごときも近来量子的のものと考えられる以上は、例えば静電気分布に関する旧来の理論も畢竟一種の統計的の意味しかないようになって来る。光などでも単一な球面波のごときものは実現し難いものであって、実際の光はやはり複雑多様な要素の集団であって光・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・ その翌日また別の席でこれらの人たちと晩餐を共にしてシュミット、ウィーゼ両氏の簡単な講演を聞く機会を得た。 北極をめぐる諸科学国が互いに協力して同時的に気象学的ならびに一般地球物理学的観測を行なういわゆるインターナショナル・ポーラー・・・ 寺田寅彦 「北氷洋の氷の割れる音」
・・・そこを猟師がつかまえるのだという。相手がウニコールであるとは云いながら甚だ罪の深い仕業であると云わなければならない。 五 三四三頁にはこんな事がある。 スマトラのドラゴイア人の中で病人が出来ると、その部落・・・ 寺田寅彦 「マルコポロから」
出典:青空文庫