・・・ところがその半月ばかりが過ぎてから、私はまた偶然にもある予想外な事件に出合ったので、とうとう前約を果し旁、彼と差向いになる機会を利用して、直接彼に私の心労を打ち明けようと思い立ったのです。「と云うのはある日の事、私はやはり友人のドクトル・・・ 芥川竜之介 「開化の良人」
・・・彼はその恐怖を利用し、度たび僕を論難した。ヴェルレエン、ラムボオ、ヴオドレエル、――それ等の詩人は当時の僕には偶像以上の偶像だった。が、彼にはハッシッシュや鴉片の製造者にほかならなかった。 僕等の議論は今になって見ると、ほとんど議論には・・・ 芥川竜之介 「彼」
・・・現にこの頃では、妻の不品行を諷した俚謡をうたって、私の宅の前を通るものさえございます。私として、どうして、それを黙視する事が出来ましょう。 しかし、私が閣下にこう云う事を御訴え致すのは、単に私たち夫妻に無理由な侮辱が加えられるからばかり・・・ 芥川竜之介 「二つの手紙」
・・・中流階級に訴える僕の仕事が労働階級によって利用される結果になるかもしれない。しかしそれは僕が甫めから期待していたものではないので、結果が偶然にそうなったのにすぎないのだ。ある人が部屋の中を照らそうとして電燈を買って来た時、路上の人がそれを奪・・・ 有島武郎 「片信」
・・・昔からこの刻限を利用して、魔の居るのを実験する、方法があると云ったようなことを過般仲の町で怪談会の夜中に沼田さんが話をされたのを、例の「膝摩り」とか「本叩き」といったもので。「膝摩り」というのは、丑満頃、人が四人で、床の間なしの八畳座敷・・・ 泉鏡花 「一寸怪」
・・・と趣味とを保ち得るだけでよい、此の如き風習一度立たば、些末の形式などは自然に出来てくる一貫せる理想に依て家庭を整へ家庭を楽むは所有人事の根柢であるというに何人も異存はあるまい、食事という天則的な人事を利用してそれに礼儀と興味との調和を得せし・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・ 吉弥は、自分に取っては、最も多くの世話を受けている青木をも、あたまから見くびっていたのだから、平気で僕の筆を利用しようとした。それをもって綺麗に井筒屋を出る手つづきをさせようとしたのは翌朝のことであるが、そう早くは成功しなかった。・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・ 喜兵衛は狂歌の才をも商売に利用するに抜目がなかった。毎年の浅草の年の市には暮の餅搗に使用する団扇を軽焼の景物として出したが、この団扇に「景物にふくの団扇を奉る、おまめで年の市のおみやげ」という自作の狂歌を摺込んだ。この狂歌が呼び物とな・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・もしこれを利用するを得ますればこれらはみなことごとく富源であります。かならずしも英国のごとく世界の陸面六分の一の持ち主となるの必要はありません。デンマークで足ります。然り、それよりも小なる国で足ります。外に拡がらんとするよりは内を開発すべき・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
人間は、これまでものをいうことのできない動物に対して、彼等の世界を知ろうとするよりは、むしろ功利的にこれを利用するということのみ考えて来ました。言い換えれば、利益を中心にこれ等の動物を見、また取扱って来たのです。こうしたところには、彼・・・ 小川未明 「天を怖れよ」
出典:青空文庫