・・・左れば今の女子を教うるに純然たる昔の御殿風を以てす可らざるは言うまでもなきことなれども、幼少の時より国字の手習、文章手紙の稽古は勿論、其外一切の教育法を文明日進の方針に仕向けて、物理、地理、歴史等の大概を学び、又家の事情の許す限りは外国の語・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・追剥を弟子に剃りけり秋の旅鬼貫や新酒の中の貧に処す鳥羽殿へ五六騎いそぐ野分かな新右衛門蛇足をさそふ冬至かな寒月や衆徒の群議の過ぎて後 高野隠れ住んで花に真田が謡かな 歴史を借りて古人を十七字中に現わし得たる・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・ ブドリはそれを一目見ると、ああこれは先生の本に書いてあった歴史の歴史ということの模型だなと思いました。先生は笑いながら、一つのとってを回しました。模型はがちっと鳴って奇体な船のような形になりました。またがちっととってを回すと、模型はこ・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・しかもそれは一人の前進的な人間の小市民的インテリゲンツィアからボルシェビキへの成長の過程であり、日本のプロレタリア解放運動とその文学運動の歴史のひとこまでもある。そのひとこまには濃厚に、日本の天皇制権力の野蛮さとそれとの抗争のかげがさしてい・・・ 宮本百合子 「巖の花」
・・・そして、六日午前五時すぎ、小菅刑務所のわきの五反野南町のガード下で、無残な轢死体としての下山総裁が発見された。 日本じゅうに非常なセンセーションがまきおこった。五日の午前九時すぎ下山総裁が三越で自動車をのりすててから死体となって発見され・・・ 宮本百合子 「「推理小説」」
・・・ 尤もきみ子はあの家の歴史を書いていなかった。あれを建てた緒方某は千住の旧家で、徳川将軍が鷹狩の時、千住で小休みをする度毎に、緒方の家が御用を承わることに極まっていた。花房の父があの家をがらくたと一しょに買い取った時、天井裏から長さ三尺・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・何故なら、此の二つの対立は、歴史の重大な歴史的事実であるからだ。 しかしながら、此の二つの敵対した客体の運動に対して、いずれに組するべきかその意志さえも動かす必要なくして、存在理由を主張し得られる素質を持つものが、此の社会に二つある・・・ 横光利一 「新感覚派とコンミニズム文学」
・・・もちろんそれは文展についても言えることであり、すでに十何年の歴史を負っている事実でもあるから、今さらことごとしく問題にするには及ばないかも知れぬ。しかし僕の遠望観は、ぐるぐると回っている内に、結局この問題に帰着するのである。 何人も気が・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
出典:青空文庫