・・・ どの家へ移った原因にも、みんな夫々の生活の時代が語られているのだけれど、その老松町の家に暮した時分、忘られない犬のことがある。 音羽の通りへ出るに、大塚警察の横のひろい坂をよく通った。もう十四五年にもなるから、代が変っているかもし・・・ 宮本百合子 「犬三態」
・・・最初、私共は、小石川老松町の家にいて、四月二十七日に自分達が東京駅から九州へ出発しよう等と夢にも考えていなかった。三月初旬に、Yは大腸カタールをした。家にいては食物の養生が厳格に行かない。「病院へ入る方がいいのよ、」と私が云った。「そう――・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・ 一九二五年四月〔牛込区馬場下町東光館 富澤有為男宛 小石川区高田老松町五九より〕 原稿を拝見いたしました。 遠慮なく加筆したところもあり、削ったところもございます。何卒あしからず。「この頃の若いもの云々」の話、率直・・・ 宮本百合子 「日記・書簡」
十二月二十七日 湯ヶ島へ出立。 すっかり仕度が出来上ったが余り時間がない。俥でことこと行くよりはと、フダーヤ老松町の通へ空車を捕えに出た。早朝なのでなし。かえって、一台だけ来た人力車にのって先へ出かけ、自分二十分も待たされて出発。列・・・ 宮本百合子 「湯ヶ島の数日」
出典:青空文庫