・・・兎に角お腹が空くわという気持で、露店でも見ながら街を歩くでしょう。 今日あたりの新聞をみると、少年少女の犯罪が非常に多い。特に少女の脱線ぶりがひどい。一斉検挙をするということが出て居ります。それを読んで私は非常に悲しく思いました。なぜな・・・ 宮本百合子 「美しく豊な生活へ」
・・・ 小道具でも、何んでもが、小綺麗になって、置床には、縁日の露店でならべて居る様な土焼の布袋と、つく薯みたいな山水がかかって居た。 お金は、すっかり片づけて来て、兄の前にぴったりと平ったく座ると、急にあらたまった口調で、無沙汰の詫やら・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・一つの国が民主憲法をもち、民主的行政機構をもち、民主的労働組合と文化をもち、すべては民主的な表現で話されていて、内実は、ポツダム宣言の急速な裏切りと戦争挑発とファシズムの東洋の露店がつくられつつあるとすれば、その国の人民のおかれた愚弄の位置・・・ 宮本百合子 「三年たった今日」
・・・如何にも東洋の夜らしく鋪道の傍に並んだ露店を素見しながら、煌らかな明りの裡を、派手な若い男女の組、幸福らしい親子づれがぞろぞろ賑やかに通るのだが、今は、一とき前の引潮だ。道傍で生れた浮浪人さえ此世には無い自分の家を慕わせる逢魔が時だ。 ・・・ 宮本百合子 「小景」
・・・主として重油、機械油、リグロイン等を精製するのだそうであるが、その露天泉を眺めた時、自分は別府温泉の地獄まわりで坊主地獄と云ったか、それを思い出した。黒石油は重く、泥が煮えるように湧き立っているのである。 二露里ばかり行ったところに白石・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・その低い屋根の下には露店が続き、軽い玩具や金物が溢れ返って光っていた。群集は高い街々の円錐の縁から下って来て集まった。彼はきょろきょろしながら新鮮な空気を吸いに泥溝の岸に拡っている露店の青物市場へ行くのである。そこでは時ならぬ菜園がアセチリ・・・ 横光利一 「街の底」
出典:青空文庫