・・・の語原だと言って某新聞に載っていた記事が話題にのぼった。維新前牛肉など食うのは禁物であるからこっそり畑へ出てたき火をする。そうして肉片を鋤の鉄板上に載せたのを火上にかざし、じわじわ焼いて食ったというのである。こういうあんまりうま過ぎるのはた・・・ 寺田寅彦 「言葉の不思議」
・・・私は話題がないので、そんなことを訊いてみた。もちろん私一箇としては話題がありあまるほどたくさんあった。二人の生活の交渉点へ触れてゆく日になれば、語りたいことや訊きたいことがたくさんあった。三十年以前に死んだ父の末子であった私は、大阪にいる長・・・ 徳田秋声 「蒼白い月」
・・・僕は一体話題のすくない人間であり、自己の狭い主観的興味に属すること以外、一切、話すことの出来ない質の人間だから、先方で話題を持ちかけて来ない以上は、幾時間でも黙っている外はない。だから客の方で黙っていると、結局睨み合ってしまう。そしてこの睨・・・ 萩原朔太郎 「僕の孤独癖について」
・・・が話題にのぼったのは、かれこれ七年くらい前のことであろうか。当時私はモスクワにいた。そして本家本元のソヴェト同盟では厳密に批判され、本屋に本も出ていないようなコロンタイズムが流布することを知って、非常に苦しいような驚いた心持がしたのを今もは・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・ 三 こういう問題ともにらみあわして、ふたたびアメリカ大統領選挙の話題が浮びあがってくる。あれほど共和党デューイ当選確実とおもいこまれた一つの原因は、アメリカの世論調査所がどこの調査もデューイ優勢を告げたか・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・私は、現実に幾度もこういう話題について語る若い方々の意見をきいております。 現代の世紀には、世界じゅうの女性が、それをきらっている一つの言葉があります。それは「歴史はくりかえす」という言葉です。現代の世界じゅうの女性にとって、「歴史はく・・・ 宮本百合子 「新しい卒業生の皆さんへ」
・・・ 近ごろは自然主義ということが話題に上ることが少なくなって、その代りに個人主義ということが云々せられる。 芸術が人の内生活を主な対象にする以上は、芸術というものは正しい意義では個人的である。この意義における個人主義は、哲学的に言えば・・・ 森鴎外 「文芸の主義」
・・・その地方の細かい双方の話題が暫く高田と梶とを捨てて賑やかになっていくうちに、とうとう栖方は自分のことを、田舎言葉まる出しで、「おれのう。」と梶の妻に云い出したりした。「もうすぐ空襲が始るそうですが、恐いですわね。」と梶の妻が云うと、「一・・・ 横光利一 「微笑」
・・・その時に、誰いうともなく、蓮の花の開くときに音がする、ということが話題になった。一つ試してみようじゃないか、というわけで舟を蓮の花の側に止めさせて、今にも開きそうな蕾を三人で見つめた。その蕾はいっこう動かないが、近辺で何か音がする。蓮の花の・・・ 和辻哲郎 「巨椋池の蓮」
・・・が、ほかの人たちが話題にするのは、当時の文芸の作品とか美術とか学問上の著作とかの評判であった。漱石はそういう作品の理解や批判の力においても非常にすぐれていたと思う。若い連中にはどうしても時勢に流され、流行に感染する傾向があったが、漱石は決し・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫