・・・而して、考え、感じ、味わんがための怠惰と休息を好み、あきらめ醒めたるものゝ自殺を喜ぶ。 日は暮れた。夕暮の一時は、私に、いろ/\の室の裡にさま/″\の人が、異った気持を抱いて、異ったことを考えているのであろうことを思わせた。・・・ 小川未明 「夕暮の窓より」
・・・「お継母さんはあのとおり真向な、念々刻々の働き者だからいい人だと思うけれど、何しろあの毒舌には敵わん。あれだけは廃してくれるといいと思うがなあ。老父までもかぶれてすっかり変な人間になっちゃったよ。俺も継母が来てから十何年にもなるけれど、・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・そんなこんなで前借のこと親方に言い出すのは全く厭だったけど、言わないじゃおられんから帰りがけに五円貸してくれろと言うと、へん仕事は怠けて前借か、俺も手前の図々しいのには敵わんよ、そらこれで可かろうって二円出して与こしたのだ。仕方が無いじゃア・・・ 国木田独歩 「竹の木戸」
・・・と主人の少女はみしみしと音のする、急な階段を先に立て陞って、「何卒ぞ此処へでも御座わんなさいな。」 と其処らの物を片付けにかかる。「すこし頼まれた仕事を急いでいますからね、……源ちゃん、お床を少し寄せますよ。」「いいのよ、其・・・ 国木田独歩 「二少女」
・・・流れの岸には紅楓の類を植えそのほかの庭樹には松、桜、梅など多かり、栗樹などの雑わるは地柄なるべし、――区何町の豪商が別荘なりといえど家も古び庭もやや荒れて修繕わんともせず、主人らしき人の車その門に駐りしを見たる人まれなり、売り物なるべしとの・・・ 国木田独歩 「わかれ」
・・・今までえらそうにぶつ/\云っていた奴が、ワン/\吠えることだけしか出来ねえんだ。へへ、役員の野郎、犬になりやがって、ざま見やがれ!――あいつら、もと/\犬だからね。」「ふむゝ。」 彼等は、珍しがった。作り話と知りつゝ引きつけられた。・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・今までえらそうにぶつ/\云っていた奴が、ワン/\吠えることだけしか出来ねえんだ。へへ、役員の野郎、犬になりやがって、ざま見やがれ!――あいつら、もと/\犬だからね。」「ふむゝ。」 彼等は、珍しがった。作り話と知りつゝ引きつけられた。・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・水は湾わんわんと曲り込んで、そして転折して流れ去る、あたかも開いた扇の左右の親骨を川の流れと見るならばその蟹目のところが即ち西袋である。そこで其処は釣綸を垂れ難い地ではあるが、魚は立廻ることの多い自然に岡釣りの好適地である。またその堤防の草・・・ 幸田露伴 「蘆声」
・・・な事があると、おばあさんは以前のような、小さい、言う事をきく子どもにしようと思っただけで、即座にちっぽけに見る事もできましたし、孫たちがよちよち歩きで庭に出て来るのを見るにつけ、そのおい先を考えると、ワン、ツー、スリー、拡大のガラスからのぞ・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:有島武郎 「真夏の夢」
・・・な事があると、おばあさんは以前のような、小さい、言う事をきく子どもにしようと思っただけで、即座にちっぽけに見る事もできましたし、孫たちがよちよち歩きで庭に出て来るのを見るにつけ、そのおい先を考えると、ワン、ツー、スリー、拡大のガラスからのぞ・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:有島武郎 「真夏の夢」
出典:青空文庫