・・・そのほかにまだグラジオラスの根やアネモネの根もずっと前に見た記憶があった。これに反して、偶然な回り合わせでフリージアの根だけはまだ見た事がなかったのであった。これまで花屋で鉢植えの草花などを買う時に、この花は始終に目をつけていたにかかわらず・・・ 寺田寅彦 「球根」
・・・ まっ赤なアネモネの花の従兄、きみかげそうやかたくりの花のともだち、このうずのしゅげの花をきらいなものはありません。 ごらんなさい。この花は黒朱子ででもこしらえた変わり型のコップのように見えますが、その黒いのは、たとえば葡萄酒が黒く・・・ 宮沢賢治 「おきなぐさ」
・・・ 湿りけのぬけない煉瓦が、柔らかな赤茶色に光って見える建物の傍に、花をつけた蜜柑が芳しい影をなげ、パンジー、アネモネ、ヒヤシンスと、美くしい色と色とを反映させながら咲き続いた花壇の果は、ズーッと開いて、折々こぼれるような笑声につれて、ま・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
出典:青空文庫