・・・学の先生をしていらっしゃるのだそうで、でも、ここのご主人は文学士なのに、笹島先生は医学士で、なんでも中学校時代に同級生だったとか、それから、ここのご主人がいまのこの家をおつくりになる前に奥さまと駒込のアパートにちょっとの間住んでいらして、そ・・・ 太宰治 「饗応夫人」
・・・淀橋のアパートで暮した二箇年ほど、私にとって楽しい月日は、ありませんでした。毎日毎日、あすの計画で胸が一ぱいでした。あなたは、展覧会にも、大家の名前にも、てんで無関心で、勝手な画ばかり描いていました。貧乏になればなるほど、私はぞくぞく、へん・・・ 太宰治 「きりぎりす」
・・・ 終戦になり、細君と女児を、細君のその実家にあずけ、かれは単身、東京に乗り込み、郊外のアパートの一部屋を借り、そこはもうただ、寝るだけのところ、抜け目なく四方八方を飛び歩いて、しこたま、もうけた。 けれども、それから三年経ち、何だか・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・天沼のアパート。天沼の下宿。甲州御坂峠。甲府市の下宿。甲府市郊外の家。東京都下三鷹町。甲府水門町。甲府新柳町。津軽。 忘れているところもあるかも知れないが、これだけでも既に二十五回の転居である。いや、二十五回の破産である。私は、一年に二・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・申しおくれましたが、当時の僕の住いは、東京駅、八重洲口附近の焼けビルを、アパート風に改造したその二階の一部屋で、終戦後はじめての冬の寒風は、その化け物屋敷みたいなアパートの廊下をへんな声を挙げて走り狂い、今夜もまたあそこへ帰って寝るのかと思・・・ 太宰治 「女類」
・・・「何を言っているのです。きざな事を言ってはいけません。草田さんも閉口していましたよ。玻璃子ちゃんのいるのをお忘れですか?」「アパートを捜しているのですけど、」夫人は、僕の言葉を全然黙殺している。「このへんにありませんか。」「奥さ・・・ 太宰治 「水仙」
・・・「わたくしのアパートにいらっしゃいません? きょうは、はじめから、そのつもりでいたのよ。アパートには、面白いお友達がたくさんいますわ。」 私は憂鬱であった。気がすすまないのだ。「アパートに行けば、すばらしいプレイがあるのですか?・・・ 太宰治 「父」
・・・ 船橋の家は、私の入院中に廃止せられて、Hは杉並区・天沼三丁目のアパートの一室に住んでいた。私は、そこに落ちついた。二つの雑誌社から、原稿の注文が来ていた。すぐに、その退院の夜から、私は書きはじめた。二つの小説を書き上げ、その原稿料を持・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・ この映画でもっとも美しいと思ったのはアパートのバルコンのような所へおおぜいの女が出て来て体操をする光景である。これは全く理屈なしに明るく力強く新鮮で朝日ののぼるごとき感じのするシーンである。同じ体操でも前の工場の体操とはまるで別な感じ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ 安アパートの夜の雨の場面にももう少しの俳諧がほしいような気がした。 前途有望なこの映画の監督にぜひひと通りの俳諧修行をすすめたいような気がしているのである。 十六 外人部隊 たいへんに前評判のあった映画であ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
出典:青空文庫