・・・頸を伸ばして隣りの三畳間を覗くと、三畳間の隅に、こわれかかった七輪が置かれてあって、その上に汚く煤けたアルミニュームの薬鑵がかけられている。これだと思った。そろそろと膝行して三畳間に進み、学生たちもおくれては一大事というような緊張の面持でぴ・・・ 太宰治 「不審庵」
・・・大きい角テーブルがあって、そこにアルミニュームの鉢、サジなどがキレイにうんと積み重ねてある。 私たちは、一番年下の級の子供たちの間に挾って坐っている。子供たちがこっちをみる。私たちも子供たちをみる。そして互に笑い出す。――何のこだわりも・・・ 宮本百合子 「従妹への手紙」
・・・ 娘さんは、やっと蓮根の煮つけが赤漬ショウガとつけ合わせてあるアルミの弁当をひらいたが、ところどころ突ついたきり、湯ものまぬ。 午後第一房の強盗が保護室へうつされ、数日ぶりで自分たちは監房へ入れられた。 娘さんは、帯もしめた・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・それはいねちゃんと私とが大きいアルミの薬カンをかけた私のうちの茶の間の火鉢をさしはさんでとったもので文学雑誌のひとがとったのです。いつかやはり別の文学雑誌が私の机の前にいるところを横からとったのがあった、それに似ているという話です。 き・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 床から二尺というところに手拭、歯ブラシ、アルミニュームのコップがキチンとぶら下っている。が、どれが金毛のインので、どれがみそっぱのターシャのかという区別をつけるために、それぞれの釘の上へ一枚ずつ絵がはりつけてある。 猫。犬。鶏。牛・・・ 宮本百合子 「砂遊場からの同志」
・・・ 日本女は、室の隅におかれた大きな旅行籠の前へひざまずき、ともかく茶を飲むべく、四角な茶カン、二本のアルミニュームの匙、砂糖を出して、古風な更紗張テーブルへおいた。 アメリカからエジソンがソヴェト見学にやって来たとする。ゴーリキーが・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・そこでは、白い上被を着た保母さんがいて、御飯の世話をやき、少し大きくなったら、御飯のあとでアルミニュームのお皿を洗うことも教えてくれた。 ――フフフフフ。 ミーチャは、歯みがき粉のアブクを口から垂らしながら思い出し笑いをした。 ・・・ 宮本百合子 「楽しいソヴェトの子供」
出典:青空文庫