・・・彼の義務は過剰であるというイデー、カントの命題の顛倒の思想はニイチェに影響した。ツァラツストラは知恵と力にふくれて山から下り、自己を与えんために民衆への没落を義務と感じ、「汝すべし」を「われは欲す」と顛倒することを宣した。 ディルタイも・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・恋愛よりもより強く、公なるイデーによって、衝き動かされないことは男子の不面目である。恋愛をもって終始し、恋愛に全情熱をささげつくし、よき完き恋人であることでつきることは、なるほど充分にロマンチックであり、美的同情に価し、またそれだけでも人格・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・すなわち、自己独りではとうてい想望できなかったような高い、美しいイデーや、夢が他の天才の書を読むことにより、自分の精神の視野に目ざめてくるのである。 聖書を読むまでと、読後とでは、人間の霊的道徳性はたしかに水準を異にする。プラトンとダン・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・ 絵巻物というものの最初のイデーはおそらく舶来のものかもしれないが、ともかくこれはかなりに偉大なイデーである。そうしてある意味で活動映画の先駆者と見なしてもよいものである。実在の三次元の空間の一次元を割愛してただ二次元の断面に限定する代・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・もっとも中には、実際に、単に素材のみならず、その造型構成のイデーまでも弟子の独創によってできあがったものを、先生が、先生であるというだけの特権を濫用してそっくりわが物にして涼しい顔をする場合もないとは言われないが、またそうでない場合がずいぶ・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
出典:青空文庫