・・・「いや、僕は幻滅したんじゃない。illusion を持たないものに disillusion のあるはずはないからね。」「そんなことは空論じゃないか? 僕などは僕自身にさえ、――未だに illusion を持っているだろう。」「そ・・・ 芥川竜之介 「彼 第二」
・・・ かくて始めて風の音を聴いても、音楽を聴いても、他のあらゆるものを見ても、そこに始めてイリュージョンと云うものが起って来るのである。 然るにこのナチュラルな気持、デリケートな気持と云うものを感じなくて、すべてのものを心から感ずると云・・・ 小川未明 「動く絵と新しき夢幻」
・・・いちばん小さい私の子供に引っかかえられて逃げようとしてもがきながら鳴いているところを見たりすると、なおさらそういうディスイリュージョンを感じるのであった。 夏の末ごろになって三毛は二度目の産をした。今度も偶然な吻合で、ちょうど妻が子供を・・・ 寺田寅彦 「子猫」
・・・昔の感激主義に対して今の教育はそれを失わする教育である、西洋では迷より覚めるという、日本では意味が違うが、まあディスイリュージョン、さめる、というのであります。なぜ昔はそんな風であったか。話は余談に入るが、独逸の哲学者が概念を作って定義を作・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・そして彼女の腹違いの妹のシルヴィが、生粋のパリの市民で――プロレタリアートで、イリュージョンを持たず、機智的で実務家で、恋愛と結婚とをはっきり区別し、「そりゃ恋人には危っかしくたって面白い人がいいけど、良人には、一寸退屈だって永持ちのする確・・・ 宮本百合子 「アンネット」
・・・今日の真面目な心は、その若さにもかかわらずイリュージョンの大半を失っている。自分が愛される以前に、一人も愛する者を持たなかったような男性というものを、どんなに品のよい娘でも期待していないし、或る人を愛し結婚する以前に、愛した人があった事を恥・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
出典:青空文庫