・・・ さらに、インフレーションにより、当然招来する物価の騰貴は、いよ/\彼等を死地に追いやるものとして、ありの群に、殺虫剤をかけると同じいものです。いままでも時代の不遇に泣く人々はあったが、しかし、今日彼等の群は、ありの群よりも多数者である・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
・・・保守と封建。インフレーション。政治と経済。闇。国民相互の信頼。道徳。文化。デモクラシー。議会。選挙権。愛。師弟。ヨイコ。良心。学問。勉強と農耕。海の幸。」等である。幕あく。舞台しばらく空虚。突然、荒い足音がして、・・・ 太宰治 「春の枯葉」
・・・大戦中もへんな指導者ばかり多くて閉口だったけれど、こんどはまた日本再建とやらの指導者のインフレーションのようですね。おそろしい事だわ。日本はこれからきっと、もっともっと駄目になると思うわ。若い人たちは勉強しなければいけないし、あたしたちは働・・・ 太宰治 「冬の花火」
・・・「いや、その必要は無いでしょう。」「そうでしょうか。それじゃ、そろそろ出掛ける事にしましょうか。」「どこへです?」 三人兄弟の長兄に、これから逢いに行くのだという。「インフレーションがね、このままでは駄目なのです。母がそ・・・ 太宰治 「女神」
・・・大小の軍需成金たちは、戦時利得税や、財産税をのがれるために濫費、買い漁りをしているから、インフレーションは決して緩和されない。却って、最近悪化して来ている。いくら、待遇改善しても、月給は物価に追いつく時は決してない。これがインフレーションの・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・けれども、あの日台所で燻い竈の前にかがみ、インフレーションの苦しい家事をやりくって、石鹸のない洗濯物をしていた主婦のためには、新憲法のその精神がはっきり具体化されたような変化はなかった。今日は男も女も、それが地みちの生活をしている人であるな・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・第一次大戦後のドイツではこの一九二三年にあのインフレーション、マークの下落が起った。その情勢が、ドイツ・フランス等の大衆を団結させ、左翼の組織は拡大した。孫文派が広東政府を樹立し、中国国民党宣言を発表した。京漢鉄道総工会の成立大会を武力解散・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・自我と自意識の課題は、自我と社会的現実とのあるとおりの諸関係から切断して、どんな発展もない。インフレーションやアルバイトときりはなして、今日のわたしたちの学習生活が存在しないとおり、もし、今日の若い人々が経済事情をけとばしたような抽象的な学・・・ 宮本百合子 「生きつつある自意識」
・・・といわれる人のおしゃれを、はっきり開いた眼でみれば、その女の人の生活の裏がこのインフレーション地獄の下でどうやりくりされているか見えるようなおしゃれもある。 ここで、誰のために何を縫うのかという質問は、もっと身に迫って、私たちは、どうい・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・今日封建性に反対するという名目で私たちの間に性的な放恣がないであろうか。インフレーションはたれの経済生活をもうちこわしている。インフレーションに名をかりて、金の上でのルーズさが案外見のがされているところがあるのではないだろうか。勤労階級の解・・・ 宮本百合子 「共産党とモラル」
出典:青空文庫