・・・私は一昨日「エロチシズムと文学」という題で朝っぱらから放送したが、その時私を紹介したアナウンサーは妙齢の乙女で、「只今よりエロチ……」と言いかけて私を見ると、耳の附根まで赧くなった。私は十五分の予定だったその放送を十分で終ってしまったが、端・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
「エロチシズムと文学」というテエマが僕に与えられた課題であります。しかし、僕は「エロチシズムと文学」などというけちくさい取るに足らぬ問題について、口角泡を飛ばして喋るほど閑人でもなければ、物好きでもありません。ほかにもっと考・・・ 織田作之助 「猫と杓子について」
・・・光琳や芭蕉は少数向きの芸術映画、歌麿や西鶴は大衆向きのエロチシズム、写楽や京伝は社会的な諷刺画とでもいった役割ででもあろうか。また広重をして新東京百景や隅田川新鉄橋めぐりを作らせるのも妙であろうし、北斎をして日本アルプス風景や現代世相のペー・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・ある意味において陶器の翫賞はエロチシズムの一変形であるのかもしれない。 青磁の徳利にすすきと桔梗でも生けると実にさびしい秋の感覚がにじんだ。あまりにさびしすぎて困るかもしれない。 青磁の香炉に赤楽の香合のモンタージュもちょっと美しい・・・ 寺田寅彦 「青磁のモンタージュ」
・・・すべての宗教には陰惨なエロチシズムの要素をもっているということをこの絵が暗示しているように思われる。中川一政氏の素朴な静物も今日よく見直してみてもやはり何とも説明し難い実に愉快なすがすがしさをもっている。これらの絵はみんな附焼刃でない本当に・・・ 寺田寅彦 「二科展院展急行瞥見記」
・・・これと比較するとたとえば蕪村は自然に対するエロチシズムをもっていない。画家であった彼の目には万象が恋の相手であるよりはより多く絵画の題材であるか、あるいは彼の詩の資料のように見えた。また一茶には森羅万象が不運薄幸なる彼の同情者慰藉者であるよ・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・殊に第一のクライマックスは最も極端なアブノーマル・エロチシズムの適例として見ることも出来はしないかと想像される。 こういうものが如何なる時代に如何なる人の需めによって如何なる人によって制作されたかということは、色々な問題に聯関して研究さ・・・ 寺田寅彦 「山中常盤双紙」
・・・は、その惑溺の最中に書いた抒情詩の集編であり、したがつてあのショーペンハウエル化した小乗仏教の臭気や、性慾の悩みを訴へる厭世哲学のエロチシズムやが、集中の詩篇に芬々として居るほどである。しかし僕は、それよりも尚多くのものをニイチェから学んだ・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・いかなる封建性、きたないブルジョア・エロチシズム横行の中にあっても、その蒙昧さによって一応母の愛はその偽善も、バクロされないのである。 自分は今こそ「妻・母」として Full にものを云い得る。愛する男の美しさについて、その皮膚のすみず・・・ 宮本百合子 「婦人作家は何故道徳家か? そして何故男の美が描けぬか?」
・・・そして、ブルジョア文化用具としてのブルジョア・ジャーナリズムの命じるままに、片々たるエロチシズムとナンセンス文学をつくって来た。ところが、階級対立が激化し、帝国主義戦争=大衆の大量的死がブルジョアジーにとって必要となってくるにつれ、文化のい・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫