・・・ と、済ました顔で、「――以前は、財布を忘れて外出して弱ったものだが、しかし、喫茶店なんかのカウンターであっちこっちポケットを探っているうちに、ひょいと入れ忘れた十円札が出て来たりして、助かったことが随分あったよ」「忘れて弱り、・・・ 織田作之助 「鬼」
・・・ 僕は、カウンターに片肘をのせて立っているおかみさんの顔を見た。 おかみさんは、いかにも不機嫌そうに眉をひそめ、それから仕方無さそうに笑い出し、「話にも何もなりやしないんですよ、あの子のそそっかしさったら。外からバタバタ眼つきを・・・ 太宰治 「眉山」
・・・又カウンターに倚りかかって火酒を立飲する亜米利加風の飲食店も浅草公園などには早くから在ったようであるが、然し之を呼ぶにカッフェーの名を以てしたものは一軒もなかった。カッフェーの名の行われる以前、この種類の飲食店は皆ビーヤホールと呼ばれていた・・・ 永井荷風 「申訳」
出典:青空文庫