・・・真白なきれいな小さいカラーのように、若々しさによく似合って清潔などんな正義感を、おもちでしょうか。〔一九四八年六月〕 宮本百合子 「光線のように」
・・・とめにアテナは大層ハイカラーに見えたのだろう。それで、一寸椅子にかけ、花の飾ってある机に向い、アテナを使って友達に手紙でも書いて見たかったのであろう。私にも、このような気持には覚えがある、十二三の頃、父が事ム所のタイプライター用紙を一箱だけ・・・ 宮本百合子 「木蔭の椽」
・・・ 強盗が、カラーをとったワイシャツの上に縞背広の上衣だけきて入れられて来たが、留置場は冷淡な空気であった。何もとらずにつかまった。それが強盗としてのその男に対する与太者たちの評価に影響しているのであった。看守だけが、「――つまらんこ・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・朝六時に、カラーをつけない背広の襟にマフラをまきつけて合外套などというものは身にもつけずに働きに出る勤労の人々が、夕方には顔の見えなくなる迄電燈を倹約して窓べりで待っている妻子のところへ戻ってゆく朝から夜が、やはり頽廃していたとどうして云う・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・ さかんな拍手に迎えられて演壇へ出てきたのは二十二三の緑色ジャケツと純白なカラーのコムソモールカだ。が、然しこれは又なんと高速度演説! ちらりちらり上眼で聴衆を見ながら一分間息もつかぬ女声の速射砲。農婦と工場労働婦人の結合のため、我々コ・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
・・・イリヤ・エレンブルグは私たち外国作家の目に、ソヴェト作家中のハイカラーな人の一人として見えていたのであった。 こんどの大戦を境として、ソヴェト全市民の国境は拡大された。シーモノフに「ユーゴスラビアの手帳」という短篇集があるとおり、ソヴェ・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・正直に云うと、自分はこの高いダブル・カラーをつけ、桃色の頬ぺたをして外国商館の番頭に似た作家を余りすいているとは云えないのである。 ところが、このリージン氏が明朝自分たちもグルジンスカヤ山道をチフリスへ行くから一つ仲間にならないかと申し・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・鼠色フランネルのカラーに背広を着て、ベズィメンスキーが出て来た。そして次のような挨拶をのべた。 今日は『プラウダ』も『イズヴェスチア』も第一面に、ソヴェトの最も功労あるマルクシストの一人であり、レーニン研究所長をしている同志リャザーノフ・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・うしろの衿ボタンも妙になってカラーがさか立っている。重吉は自分のまわりを動くひろ子の頭越しに時計を見ながら、いかにも当惑したように、「時間がないな」と云った。「九時半までに必ず行かなけりゃならなかったんだ」「まあ! あすこま・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・田代先生といういつもシングル・カラーをして薄い髭を生やした音楽の先生が、唱歌を教えた。その先生は、冬の寒いとき、子供たちがつい八つくちから手を入れて懐手をしているのをみつけると、そらまた、へそを押えてる! と注意した。上級の女の児は、そう云・・・ 宮本百合子 「藤棚」
出典:青空文庫