・・・動力の科学的進歩のことにしても、自動車がガソリンでなく薪で走って、坂にかかると肥桶を積んだ牛車に追いこされるという笑話が万更嘘ばかりでもない今日、現象として科学の発達のよろこびは皮肉と苦笑とを誘って実感から遠いものとなるのはやむを得まい。台・・・ 宮本百合子 「市民の生活と科学」
・・・網やガソリンが不足で品が足りないでいるということもある。 海辺だから、魚の心配だけはないなどと云っていたのは昔話だと、母ともどもすこしあっけにとられて東京へ帰って来た。 東京駅でスーツ・ケースをうけとってくれたひとが、先ず訊いたのは・・・ 宮本百合子 「主婦意識の転換」
・・・……もう十五年経つとアメリカはわれわれの石油を買いますよ、――いや、もうベンジンやガソリンは買いはじめている」 烈しい風に吹きとばされまいとして、私は外套のカラーを片手で頸のまわりに押え、技師の鼻先へ耳をつき出してそういう話をききとるの・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・東京の円タクはガソリン・スタンド廃業というようなことがある位で一日二ガロン半とかも手に入りにくい時があるらしいが、あちらはどうやらやりくっているから助ります。 今年の冬から、日本じゅうお米が七分搗になります。ビルディングの暖房もずっと減・・・ 宮本百合子 「二人の弟たちへのたより」
・・・先ずガソリン節約でバスがまた一日二三度しか通らなくなったことから始まって、村の空気は段々しかも急速に変化して来た。 近所に出磬山という妙な重箱よみの名をもった山があってその麓一帯何万坪かの田畑が今度買いあげられ、そこに兵営が出来ることに・・・ 宮本百合子 「村の三代」
出典:青空文庫