・・・ あの「ガラ/\」の山崎のお母さんでさえ、引張られて行く自分の息子よりも、こんな日の朝まだ夜も明けないうちに、職務とは云え、やって来て、家宅捜索をするのに、すぐ指先がかじかんで、一寸やっては顎の下に入れて暖めているのを見るに見兼ねて、「・・・ 小林多喜二 「母たち」
・・・五六人の女婢手を束ねて、ぼんやり客俟の誰彼時、たちまちガラ/\ツとひきこみしは、たしかに二人乗の人力車、根津の廓からの流丸ならずば権君御持参の高帽子、と女中はてん/″\に浮立つゝ、貯蓄のイラツシヤイを惜気もなく異韻一斉さらけだして、急ぎいで・・・ 永井荷風 「上野」
・・・バスの前方のガラスを流れている。 降りる頃には またやんでしまっていた。◎芝居のかえり。初日で十二時になるアンキーとかいう喫茶。バーの女給。よたもん。茶色の柔い皮のブラウズ。鼠色のスーとしたズボン。クラバットがわりのマッフラ・・・ 宮本百合子 「情景(秋)」
・・・息子に投資して値上りを待っていたら突然ガラを食ったというようなものでしょう。」 地道な子を育てようとして、そう行かなかったとしてそれは母だけの罪ではないことを作者は認めている。子供のことはもう家庭の中でだけ解決した時代が過ぎた。そのこと・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
出典:青空文庫