・・・これではかえって隣りにいる同志はキット俺の健康を気遣っているかも知れない。 俺はどうしたのかと思った。診察のとき、屁のことを医者に云った。「それは醗酵し易い麦飯を食って、運動が不足だからですよ。」 と、このお抱え医者は事もなげに・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・それでも、母が安心していることは、こっちの冬に二十何年も慣れたお前は、キットそこなら呑気にいれるだろうと考えているからだ。前の手紙を見ると、お前はそこで毎朝六時に「冷水摩擦」をやっていると書いていたが、こっちでそんな時間に、そんなことをした・・・ 小林多喜二 「母たち」
・・・ 帰りに一人が、ちょうど棒頭の小便をしていた時、仲間に「だが、俺ァなあキットいつかあの犬を殺してやるよ……」と言った。 小林多喜二 「人を殺す犬」
・・・ビーナス殿の頬の豊かさも眼の涼しさも御前にはキット及ばないに違いない。精女 そんなにおっしゃらないで下さいませ、そんなにおっしゃられるほどのものじゃあございませんですから――ペーン まっしろな銀で作った白孔雀の様な――夜光球や蛋白石・・・ 宮本百合子 「葦笛(一幕)」
・・・ 一人の女が小ブルジョア的な人道主義、偸安主義の生活を何かの必然的動機ですて、プロレタリア解放のために一つの役割をもって生活するようになれば、キット、生活の変化は恋愛と恋愛観の変化を起すにきまっている。 そうではありませんか? ・・・ 宮本百合子 「ゴルフ・パンツははいていまい」
・・・托児所はキット一人の小児科医と数人の姆母さんと炊事掃除がかりとで構成されている。 連れて来た赤坊たちは、まず第一の室ですっかり着ているものをぬがされ、互にまだ性別のない体をあどけなく眺めあいながら、体重を計られ、検温され、やがてすっかり・・・ 宮本百合子 「砂遊場からの同志」
・・・ 痛快なのは、ソヴェト同盟の生産拡張五ヵ年計画がはじまるまで、狡いことして儲けていた小成金や商人が、三十ルーブリの室なら九十ルーブリという風に、いつもキット三倍の税をかけられていたことだ。家賃が三倍になるばかりじゃない。電燈料もガス代も・・・ 宮本百合子 「ソヴェト労働者の解放された生活」
・・・ それから、私達は、だれでも、あいたいと思ってる人にフイに思いがけない様な時に会った時にする様な、あとでキットくやしくなるとりとめもない話をして笑いながら牛肉屋の角で分れてそれから私は走る様にして家に帰った。マアほんとうに夜になるのが待・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
・・・どうぞ貴方の御身御案じ申し上げて居る多数の家の人のためにとお思になっていらっしゃって下さいませ、キット私はあとから彼の方もすすめてあちらの家にあげる様にいたしますから」と二日も四日もかかってすすめたので、「それではキットそうしてお呉・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・「それもいいやろ、けど笑われるワナ、そなような事したら御座敷に出て笑われるやろキット……」「はく情な事でもどうせそんな事しないからいいけど……。一寸会っただけでどうしてこんなに仲よくなったのかしらん……」「神さんの御ひき会せや、二人で御礼参・・・ 宮本百合子 「ひな勇はん」
出典:青空文庫