・・・往来へ出て来た彼は、だから機械から外して来たクランクのようなものである。少しばかり恰好の滑稽なのは仕方がないのである。彼は滅多に口を利かない。その代りいつでもにこにこしている。おそらくこれが人の好い聾の態度とでもいうのだろう。だから商売は細・・・ 梶井基次郎 「温泉」
・・・というとたんに、ぱっと二人の乗って行った船の機関室が映写されて、今まで回っていたエンジンのクランクがぴたりと止まる。これらはまねやすい小技巧ではあるがやはりちょっとおもしろい。 バスチアンとイドウとが氷塊を小汽艇へ積み込んでいるところへ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・ ニッケル大湯沸のクランクからバケツへ熱湯を注ぎながら皿洗女は云った。 ――臨時でもなんでも、こうして働ければ結構ですさ。働いていりゃ並木通りあるきをしないですむから……ねえ。 そのほか、 並木通りにはティモフェー・ティモフ・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
出典:青空文庫