・・・などと、一向にぱっとしない、愚にもつかぬ文句を、それでも多少、得意になって、やはり自身の、ありあまる教養に満足しながら、やたらにその文句を連発してサロンを歩きまわって、サロンの他の客はひとしく、これには閉口するところが、在ったように記憶して・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・毎日、毎日、尾沼栄蔵のサロンに、稽古に出かけて、ごほんごほん変なせきが出て、ゆたかな頬が、細くなるほど、心労つづけた。 初日が、せまった。三木は、こっそり尾沼栄蔵のもとへ、さちよの様子を聞きに行った。帰って来てからさちよに、君がうまいん・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・ 三 別れの曲 ショパンがパリのサロンに集まった名流の前で初演奏をしようとする直前に、祖国革命戦突発の飛報を受取る。そうして激昂する心を抑えてピアノの前に坐り所定曲目モザルトの一曲を弾いているうちにいつか頭が変にな・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
・・・そうして七十歳にでもなったらアルプスの奥の武陵の山奥に何々会館、サロン何とかいったような陽気な仙境に桃源の春を探って不老の霊泉をくむことにしよう。 八歳の時に始まった自分の「銀座の幻影」のフィルムははたしていつまで続くかこればかりはだれ・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・しかも一つ処を幾度も幾度もサロンデッキを逍遙する一等船客のように往復したらしい。 電燈がついた。そして稍々暗くなった。 一方が公園で、一方が南京町になっている単線電車通りの丁字路の処まで私は来た。若し、ここで私をひどく驚かした者が無・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・ 彼は、もうサロンデッキを下りながら答えた。 一運は、ブリッジをあちこち歩き始めた。 ブリッジは、水火夫室と異って、空気は飴のように粘ってはいなかった。 船の速度丈けの風があった。そこでは空気がさらさらしていた。 殊に、・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・はでなサロン向の画商との所謂大家的取引とは何と違うでしょう。ゴッホは自分の弟を最も信頼する画商として持っていました。ルノアールは水ぽい絵描きですが、セザンヌに対しては厚い心を持っていた様です。この伝記とチャンポンに小説を読みましょう。実に小・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・あれが一種のサロンの本であることを率直に評した人は極めて僅であったと思う。幾人かのひとは、著者がフランスの危急についてそれだけ知っていたのに、何の積極な働きも試みなかったこと、そして今になってそれを喋々する態度を批判している。その批評は幾人・・・ 宮本百合子 「今日の作家と読者」
・・・中島氏の文章はサロン五月号にのった吉田満氏の「軍艦大和」が「全く戦時型スタイル」であることを中心にしたものだった。梅崎春生氏がその作品をよまないで推薦したことについての自己批判も同じ日の文化欄に発表された。このことについて梅崎氏は、他の二三・・・ 宮本百合子 「作家は戦争挑発とたたかう」
・・・じて驚いた事は、その事件の細かく報道せられている、同じ夕刊にのっている同船の名士たちが記者のインタビューに際して、それぞれに世界情勢、国際情勢を語りながら自分の乗って来たその船で、自分達の娯楽して来たサロンの下の三等船客たちに、そういう気の・・・ 宮本百合子 「龍田丸の中毒事件」
出典:青空文庫