・・・ 青白い刃が垂直に平行して密生した芝の針葉の影に動くたびにザックザックと気持ちのいい音と手ごたえがした。葉は根もとを切られてもやはり隣どうしもたれ合って密生したままに直立している。その底をくぐって進んで行く鋏の律動につれてムクムクと動い・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
・・・ただあまりに静かな時に自分の頭の中に聞こえる不思議な雑音や、枕に押しつけた耳に響く律動的なザックザックと物をきざむような脈管の血液の音が、注意すればするほど異常に大きく強く響いてくる。しかしそれはじきに忘れてしまって世界はもとの悠久な静寂に・・・ 寺田寅彦 「病院の夜明けの物音」
・・・「おキレの角はクンクンクン ばけもの麦はザック、ザック、ザ、 からすカーララ、カーララ、カー、 唐箕のうなりはフウララフウ。」 みんなはいつの間にか棒を持っていました。そして麦束はポンポン叩かれたと思うと、もうみ・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・やがてザックザックと土をすくって柩の上を被うて行く音を聞いた時、急に私の心に蘇った恐ろしいほどの悲しさが私の指の先を震わし喉をつまらせ眼をあやしく輝かせた。 幾時かの後、私が又ここに送られて妹のわきに横わるまでまたと再びこの柩の影さえも・・・ 宮本百合子 「悲しめる心」
・・・ わがザックセン軍団につけられて、秋の演習にゆきし折り、ラアゲウィッツ村のほとりにて、対抗はすでに果てて仮設敵を攻むべき日とはなりぬ。小高き丘の上に、まばらに兵を、ザックセン、マイニンゲンのよつぎの君夫婦、ワイマル、ショオンベルヒの両公・・・ 森鴎外 「文づかい」
出典:青空文庫