・・・あの乾枯びたシャモの頸のような咽喉からドウしてアンナ艶ッぽい声が出るか、声ばかり聞いてると身体が融けるようだが、顔を見るとウンザリする、」といった。が、顔を見るとウンザリしてもその声に陶酔した気持は忘れられないと見えて、その後も時々垣根の外・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・三四丁のぼると、すきを伺って、相手の頸もとへひらりと飛びこんでくるシャモのように、舳の向きをかえ、矢のように流れ下りながら、こちらへ泳ぎついてきた。そして、河岸へ這い上ると、それぞれの物を衣服の下や、長靴の中にしのばして、村の方へ消えて行っ・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・ただの鶏じゃないのだ。シャモと言ってな、喧嘩をさせる鶏だ。ことしの十一月に、シャモの大試合があって、その試合に全部出場させるつもりで、ただいま訓練中なんだが、ぶざまな負けかたをしたやつだけをひねりつぶして食うつもりだ。だから、十一月まで待つ・・・ 太宰治 「親友交歓」
出典:青空文庫