・・・しかし事実において服装でも食物でも建物でもまたスポーツでもジャズでもチューインガムでも、現在滔々として日本の社会のあるレヴェルを押し流しているものはこういうアメリカ文化であるように見えるのは一体どういう訳のものであろうか。地球上層の風は西か・・・ 寺田寅彦 「チューインガム」
・・・たとえば相対性原理とはどんな事か、マルキシズムとは何か、バロック芸術とは何、ベースボールとは何、ジャズとは何、そういうことが望みのままに早分りがすれば甚だ便利であり、また時代に適応する所以であるかもしれない。 現代に隆盛を極めている各方・・・ 寺田寅彦 「夏」
・・・こういうトピックスで逆毛立った高速度ジャズトーキーの世の中に、彼は一八五〇年代の学者の行なった古色蒼然たる実験を、あらゆる新しきものより新しいつもりで繰り返しているのであろう。そうして過去のベースを逆回りして未来のホームベースに到着する夢を・・・ 寺田寅彦 「野球時代」
・・・明治煉瓦時代の最後の守りのように踏みとどまっていた巨人が立ち腹を切って倒れた、その後に来るものは鉄筋コンクリートの時代であり、ジャズ、トーキー、プロ文学の時代である。 あの時に塔のほうへ近づいて行ったあの小犬はどうしたか。当時を思い出す・・・ 寺田寅彦 「LIBER STUDIORUM」
・・・いかに交通が便利になって、東京ロンドン間を一昼夜に往復できるようになっても、日本の国土を気候的地理的に改造することは当分むつかしいからである。ジャズや弁証法的唯物論のはやる都会でも、朝顔の鉢はオフィスの窓に、プロレタリアの縁側に涼風を呼んで・・・ 寺田寅彦 「涼味数題」
・・・わたくしはジャズ模倣の踊をする踊子の楽屋で、三社祭の強飯の馳走に与かろうとは、全くその時まで夢にも予想していなかったのだ。 踊子の栄子と大道具の頭の家族が住んでいた家は、商店の賑かにつづいた、いつも昼夜の別なくレコードの流行歌が騒々しく・・・ 永井荷風 「草紅葉」
戦争後に流行しだしたものの中には、わたくしのかつて予想していなかったものが少くはない。殺人姦淫等の事件を、拙劣下賤な文字で主として記載する小新聞の流行、またジャズ舞踊の劇場で婦女の裸体を展覧させる事なども、わたくしの予想し・・・ 永井荷風 「裸体談義」
・・・「なんだ愉快な馬車屋ってジャズか。」「ああこの譜だよ。」狸の子はせなかからまた一枚の譜をとり出しました。ゴーシュは手にとってわらい出しました。「ふう、変な曲だなあ。よし、さあ弾くぞ。おまえは小太鼓を叩くのか。」ゴーシュは狸の子が・・・ 宮沢賢治 「セロ弾きのゴーシュ」
出典:青空文庫