・・・ わけのわからぬ問答に問答をかさねて、そのうちに、久保田氏は、精神とかジャンルとか現象とかのこむずかしい言葉を言い出し、若い作家の読書力減退についてのお説教がはじまり、これは、まさしく久保田万太郎なのかもしれないなどと思ったら酔いも一時・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・ 世界文学の範囲にひろく眺めて、ルポルタージュというジャンルは、社会層のテムポ速い飛躍と複雑の増大によって、確に来るべき文学に従前よりは重大な場所を占めるであろうと考えられる。 日本で報告文学が、小説以前の現実状況の報告文学としての・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・をとりあげ、その作品は一般読者の間で評判がよく親しみをもって読まれたから、ああいう肩のこらない作品の型もプロレタリア文学の中にあってよいのではないかという風に問題をおこし、プロレタリア文学のジャンルの問題に連関させていた。 その晩、自分・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・それからの脱出として、既成の作家たちは、まじめに自分の人および芸術家としてのよりどころを、なにか新らしい力づよい情熱の上に発見しようとし、戦争をその契機としてつかもうとし、なにか新らしい文学ジャンルの開拓によって、たとえば報道文学、国民文学・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・ 短歌は日本の民族がもって来た文学のジャンルですから、それを破壊するより、そこに新しい真実と実感がもられるように、歌壇の下らない宗匠気風にしみないみなさまの御努力が希われます。 登龍のむずかしいアララギ派に云々とかかれている方のお言・・・ 宮本百合子 「歌集『仰日』の著者に」
・・・詩の制作の要求がおこっていることは、今日私たちが取りくんでいる社会情勢との関係で謂わば自然な人間的要求の一発露でしょう。詩のジャンルとして諷刺詩というものがあり得るとか、あり得ないとかいう論議より先に、私共は実際生活の場面で屡々それに対して・・・ 宮本百合子 「歌集『集団行進』に寄せて」
・・・にふれないで何とか目前を打開して行こうとする気持こそが謂わば当時の積極性の一面の特質であったから、文学の能動精神への刺戟、要求は、インテリゲンツィアの生活的方向を押し出す現実の力をもたず、文学の方法、ジャンルの再検討、曖昧のままにのこされて・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 国民の文学と呼ぶに足るものが其々のジャンルによって幾通りか生れ出て来るためには、人々の精神や神経のなかで文学がまともに置かれようとして、そこに腰が据えられてゆかなければならないのだろう。 この間高見順氏が文学は非力なものではあるが・・・ 宮本百合子 「実感への求め」
・・・という論文の一部が、文学の本質、ジャンル等についての西洋学説が日本に紹介された最初のものであったということを本間久雄氏著「男女文学史」で知ったことも感興をひいた。明治七年と云えば福沢諭吉は四十一歳、「学問のすゝめ」を出した二年後であり、祖父・・・ 宮本百合子 「繻珍のズボン」
・・・報告文学がそのものとして独自の人間記録の価値をもって文学を豊かならしめ得るためには、一方に文学の各ジャンルの方法が芸術の自主性において確立されていなければならない。当時のように、文学全体が帰趨を失い自主的な対象と方法とを見失っていたような時・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
出典:青空文庫