・・・孕の海にジャンと唱うる稀有のものありけり、たれしの人もいまだその形を見たるものなく、その物は夜半にジャーンと鳴り響きて海上を過ぎ行くなりけり、漁業をして世を渡るどちに、夜半に小舟浮かべて、あるは釣りをたれ、あるいは網を打ちて幸多かる・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・その一つはねずみ色の天鵞絨で作った身長わずかに五六寸くらいの縫いぐるみの象であるが、それが横腹の所のネジをねじると、ジャージャーと歯車のすれ合う音を立てながら走りだす、そうしてあの長い鼻を巧みに屈伸して上げたり下げたりしながら勢いよく走るの・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・瓶の水をジャーと金盥の中へあけてその中へ手を入れたがああしまった顔を洗う前に毎朝カルルス塩を飲まなければならないと気がついた。入れた手を盥から出した。拭くのが面倒だから壁へむいて二三返手をふってそれから「カルルス」塩の調合にとりかかった。飲・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
出典:青空文庫