・・・それが、彼の文章のスタイルに歴然と現われている。残忍な作家である。何度でも繰返して言いたい。彼は、古くさく、乱暴な作家である。古くさい文学観をもって、彼は、一寸も身動きしようとしない。頑固。彼は、それを美徳だと思っているらしい。それは、狡猾・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・互の忍耐もいり、我ままを愛の表現と思わない決心がいる――「スタイル」の愛の技巧とは全くちがった聰明がいります。 若い一組がうまくゆかないということは、やっぱり男の人に、女は家にいる方がいいという便宜的な必要が強く影響するからの結果もある・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・グロッスの貪婪なブルジョア、冷酷な淫猥なブルジョア女、圧迫されながらしばられ不具にされたプロレタリアートの描写は、その辛辣な暴露で漫画界に一つのスタイルを創った。 ぞろぞろ手法の模倣者が出た位鋭いものを持ってはいたが、本当に闘争するボル・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
・・・このひとの随筆を折々よみ、纏めて杏奴さんの文章をも読み、私はこれらの若い時代の人々が文章のスタイルに於て、父をうけついでいるのみならず、各自の生活の輪が、何かの意味で大きかった父という者の描きのこした輪廓の内にとどめられていることを痛感した・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・私は、この作で作者が自身のスタイルを試しているようなのが面白かった。流行の説話体というものは、或る独特な作家的稟質にとってだけ、真にそのひとの云おうとすることを云わしめるもので、多くの他の気質の作家にとっては、必要でもない身のくねりや、言葉・・・ 宮本百合子 「落ちたままのネジ」
・・・、同じ作家たちによって文学の大衆化のことが盛んに語られ、今日の読者大衆の文化的な水準というものはひどく低いのであるから、作家はそれを念頭において書くものをやさしく書かねばいかん、変に凝った、分りにくいスタイルでやっと身を保っているような書き・・・ 宮本百合子 「「大人の文学」論の現実性」
・・・ 社会と思想とが大きい波をかぶりつつ経て来た日本のこの数年間の生活の思い出を、あたり前の文学上のもの云いで語らず、こういう鬼や地獄をひき出して描き出すこの作者のポーズ、スタイルというようなものと、今日大陸文学懇談会とかいうところの一・・・ 宮本百合子 「観念性と抒情性」
・・・が、著者の如き分析力によってふわけされた上、昔は普通のスタイルで書いたジェームス・ジョイスが、なぜ欧州大戦後、人間意識の流れをこういう風に扱い出したか、その点を心理学的に究明することは、意味ないことであろうか。著者は、谷崎潤一郎が初期には具・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・そして道を距てた前に民芸館と称する、同スタイルの大建築がまるで戦国時代の城のように建ちかけている。木食上人、ブレーク、アルトの歌手。それとこの家! 実にびっくりして凄いような気がしました。Yの父は三井の大したところの由。私はブリティシュ・ミ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・彼が一応のスタイルをこわして、ヴァレリーの言葉から、日本庶民の理性の暗い、理性によって処理されない事象と会話の中に突入している生真面目さを、ただ日本語の不馴れな作家の時代錯誤とだけ云いすてる人はないだろう。 民主革命の長い広い過程を思え・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
出典:青空文庫