・・・その十三日前、宮本がスパイの手を通じて検挙された。ひどい拷問にあっていることがわかった。妻には着物のさし入れさえさせなかった。正月二日に山口県の田舎へ行って、宮本の母を東京につれて来て、面会を要求し、やっと生きている姿をたしかめた。以来十二・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第四巻)」
・・・野蛮な警察のスパイどもは紳士をよそおいステッキをついて我らを襲撃するからである。革命的な活動をする若い女の口へステッキをつっこんで、負傷させ、その娘が叫ぶ声をこの耳できき、その血を見たからである。それを私は私の目で、警察の留置場で見た。留置・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・そして、一九二八年三月十五日、三・一五として歴史的に知られている事件のころから共産党の組織に全国的にはいりはじめていた警察スパイが、最もあからさまに活躍して、様々の金銭問題、拐帯事件、男女問題を挑発し、共産党員を破廉恥な行為へ誘いこみながら・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・よくバスの車掌さんなんかで警察へつかまると、スパイが迚も拷問し、しかも女として堪えられないような目にあわす話をききますが、みんなそれは嘘でない証拠がここにあると思いました。 監獄では何ぞというと懲罰をくわすのだそうです。革命記念日に嚔を・・・ 宮本百合子 「共産党公判を傍聴して」
・・・それからのちあらわれたスパイも金と女にきたなかった。金と女というものは現代の社会でもっとも卑俗な欲望の対象であり、また社会矛盾の表現である。 市民的なモラルの基準になるこういうことさえも、私たちは本当に純潔な階級活動家としてまじめに理性・・・ 宮本百合子 「共産党とモラル」
・・・ 紡績絣に赤い帯をしめた小娘のヤスの姿と、俄にガランとした家と、そこに絡んでいるスパイの気配とをまざまざ実感させる文章であった。仰々しい見出しで、恐らくは写真までをのせて書き立てた新聞記事によって動乱したらしい外の様子も手にとるよう・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・と追いつかわれて来た働く人々の間からは、スパイ制度と憲兵の活動によって、労働者階級として読むべき政治的な書物は根こそぎ奪われていたし、働く人々の日常からの判断としておこる当然の戦争に対する疑問や批判も、刑罰をもって監視されて来た。 した・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・天皇の名によって行われていたスパイと憲兵の絶対的な軍国主義権力が崩れて三年四年たってみると、情報局の報道と大本営発表でかためられた偽りの壁と封印の跡が、あたらしい回想と、そこに湧く批判の真実に消されはじめた。一九四五年の秋「君たちは話すこと・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・上海がかつて国際犯罪都市であったように、ブダペストが国際スパイ都市であるように。けれど、そういう犯罪的ファクターは、都民一人あまさず指紋をとることで絶滅することができないものであることも明瞭である。悪に誘われ――それが悪とさえわきまえず悪に・・・ 宮本百合子 「指紋」
・・・ハウスキーパーという名のもとに女性を全く非人間的に扱ったのは公判廷で自白しているとおり警視庁から入ったスパイの大泉兼蔵などであった。熊沢みつ子という若い婦人闘士は、ほんとうに大泉が共産主義者であり党の中央委員であると信じて、そのいうことを信・・・ 宮本百合子 「社会生活の純潔性」
出典:青空文庫