・・・ 独りドストイフスキイの作品ばかりでなく他の有名なる名作は、事件そのことが異常なものがあるのは事実であるけれど、そのソロが深刻な感銘を与えるものでないことはやはり同じであります。たゞ其の中に含まれた真実を他にしては、芸術の力というものは・・・ 小川未明 「芸術は生動す」
・・・ラハ煮テモ食エナイ、飛バナイ飛行機、走ラヌ名馬、毛並ミツヤツヤ、丸々フトリ、イツモ狸寝、傍ニハ一冊ノ参考書モナケレバ、辞書ノカゲサエナイヨウダ、コレガ御自慢、ペン一本ダケ、ソレカラ特製華麗ノ原稿用紙、ソロソロ、オ約束ノ三枚、三枚、ナンノ意味・・・ 太宰治 「走ラヌ名馬」
・・・めいめいがソロをきかせるつもりでは成り立たないのである。 中学時代にはよく「おれは何々主義だ」と言って力こぶを入れることがはやった。かぼちゃを食わぬ主義や、いがくり頭で通す主義や、無帽主義などというのは愛嬌もあるが、しかし他人の迷惑を考・・・ 寺田寅彦 「「手首」の問題」
・・・そのほかにも何かの慈善音楽会というようなものもあって、そんなおりには私にとっては全く耳新しかったいろいろのソロなどを聞く事もできた。 記憶が混雑して確かな事は言われないが、たぶんそういう種類の演奏会のどれかで私は始めてケーベルさんの顔を・・・ 寺田寅彦 「二十四年前」
・・・ 頃合をはかって、善ニョムさんは寝床の上へ、ソロソロ起きあがると、股引を穿き、野良着のシャツを着て、それから手拭でしっかり頬冠りした。「これでよし、よし……」 野良着をつけると、善ニョムさんの身体はシャンとして来た。ゆるんだタガ・・・ 徳永直 「麦の芽」
・・・ お女郎グモはソロソロと胸から首をつたわって女の目に上った。そしてパッと見ひらいたまつげとまつげとの間に銀の様な糸をはり始めた。キラキラとひかるこまかいあみの中から瑪瑙の様な目は鏡の中のあみの中にある目と見合わせて口辺にはまっさおの笑を・・・ 宮本百合子 「お女郎蜘蛛」
・・・追い払われていた、不仕合な悲しみや、辛さや、恐ろしさが、またソロソロと這い出して来た。どうしたらいいだろう。 洋罫紙の綴じたのに、十月――日と日附けをして書きながら、彼女は、カアッと眩しいように明るかった自分の上に、また暗い、冷たい陰が・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
二日も降り続いて居た雨が漸う止んで、時候の暑さが又ソロソロと這い出して来た様な日である。 まだ乾き切らない湿気と鈍い日差しが皆の心も体も懶るくさせて、天気に感じ易い私は非常に不調和な気分になって居た。 一日中書斎に・・・ 宮本百合子 「追憶」
・・・ そして、そうやっても動かなければ私は安心したけれ共、少しでも隙が出来たり何かすると、弟共の机を持って来てけつまずきそうな所に置いて見たり、箒をよせかけて、泥棒が戸を破ってソロソロと頭を出すと、いきなり箒の柄がバターンと倒れて来て、いや・・・ 宮本百合子 「盗難」
・・・ が、しかし…… 何だか気になってたまらない彼は、煙管を持った手を後で組み、継ぎはぎのチャンチャンの背を丸めて、堤沿いにソロソロと歩き出した。「オーイ、誰来てくんろよ――オーイ」 近所の桃林で働いていた三人の百姓は、びっくり・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
出典:青空文庫