・・・つまり友達としては向上心もあり、感受性も活溌で、幾らかはスポーティな、いってみれば手ごたえの鮮やかな女性を好む若い男たちが、いざ結婚のあいてを選ぶとなると案外そのようなタイプとは逆の、いわゆる家庭的と総称されて来ている娘たちの方を妻として安・・・ 宮本百合子 「異性の友情」
・・・よくある、商売人とも政治屋とも片のつかない一種のタイプなのである。「お上りなさい」と幾度も云うので、私共は、上へ上り、その椅子にやや改って腰を下した。規則をきき、一ヵ月、貸家の通知書を送って貰うために、五円ほどの金を払ったと覚えてい・・・ 宮本百合子 「思い出すこと」
・・・主要な人物は無産者托児所の何人かのタイプのちがう女性たちである。主人公ともいうべき人物はその托児所の主任※母ではない。階級的な立場にたつ婦人作家としてあらわれている。重吉とひろ子とは、様々の波瀾を互にしのいですごした十二年ののちに、はじめて・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・ 今日の上流の人々の遊びかたの一つの文化上のタイプとしてこの仮装写真を興味ふかく眺めた人は少くなかったろう。仮装の心理。仮装の面白さ。仮装のスリルは随分文学にも扱われて来た。仮装の精髄は、仮装しているものの中への感情移入であると文学・・・ 宮本百合子 「仮装の妙味」
・・・或る一つの音楽会をきいた聴衆として、一定の印象をうけてかえって翌日新聞などを見ると、ちょうど旧劇批評家の或るタイプを思わせるような挨拶のような言葉を評として発表されてある。素人は学ぶところがありません。演奏家、作曲家等は、どのような感想をも・・・ 宮本百合子 「期待と切望」
・・・という一つの文化上のタイプは出版から、娯楽から、あらゆる面に存在している。吉本興業のような漫才発明の興行者から、今度除名された講談社まで、彼等の尨大な富は、地方を文化の市場として、地方の低さを餌食にして、築き上げられたのである。 都会の・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
・・・ 二十年の歳月はすべての共産党員が新らしいタイプの政治家――うそをつくのが政治家だと思われていた常識の、全く反対の側に立つ一個のモラリストとしての社会活動家、政治家としてあらわれる責任を求めている。この責任は頭で理解するよりはるかに実現・・・ 宮本百合子 「共産党とモラル」
・・・これは女として新しいタイプであり、その点、稲子さんの良人となり友人となる者にとっては、或るこわさがある。対手を高める力として作用する隠されたこわさがある。稲子さんは、例えば私にしろ、私たちとしての立場から見て妙なことでもすれば、のほほんと馴・・・ 宮本百合子 「窪川稲子のこと」
・・・ バルザックが或時代の或タイプを描いたという評言を後生大事にかついでおまもりのように云っている人があるが、或タイプといってもそれは社会的活動の関係の中で立体的に描かれなければならないので、型として、内的外的活動を規定の枠内で行為させてい・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・肩と腰の濶い地中海の type とも違う。腰ばかり濶くて、肩の狭い北ヨオロッパのチイプとも違う。強さの美ですね。」 森鴎外 「花子」
出典:青空文庫