・・・でビールやフルーツをとり、肩入れをしている女給にふんだんにチップをやると、十日分の売上げが飛んでしもうた。ヤトナの儲けでどうにか暮しを立ててはいるものの、柳吉の使い分がはげしいもので、だんだん問屋の借りも嵩んで来て、一年辛抱したあげく、店の・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・ 会員券だからおあいそも出されぬのを良いことに、チップも置かずに帰った。暫くは腑抜けたようになって、その時の面白さを想いだしていた。もともと会員券を買わされた時に捨てたつもりの金だったからただで遊んだような気持からでもあったが、実はその・・・ 織田作之助 「雪の夜」
・・・現に今夜だって私は、チップを五百円ちかくもらったのだもの。 ご亭主の話に依ると、夫は昨夜あれから何処か知合いの家へ行って泊ったらしく、それから、けさ早く、あの綺麗な奥さんの営んでいる京橋のバーを襲って、朝からウイスキーを飲み、そうして、・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
・・・○FNへチップ五円わすれぬこと。薔薇の花束、白と薄紅がよからむ。水曜日。手渡す時の仕草が問題。○ネロの孤独に就いて。○どんないい人の優しい挨拶にも、何か打算が在るのだと思うと、つらいね。○誰か殺して呉れ。○以後、洋服は月・・・ 太宰治 「古典風」
・・・帰りにチップをいつもより奮発して出したら突返された。そうして、自分はここではボーイをしているが日本へ帰れば相当な家もあって、相当な顔のある身分であると云ってひどく腹を立てた。すっかり憂鬱になって、そこを出ると、うしろから来たアメリカ人が「ビ・・・ 寺田寅彦 「チューインガム」
・・・シャンパンを抜いてチップをやると、女たちは足を揃えて踊って見せるのだ。巴里のムーランルージュという劇場は廊下で食事もできる。酒も飲める。食事をしながら舞台の踊を見ることができるようになっていた。また廊下から地下室へ下りて行くと、狭い舞台があ・・・ 永井荷風 「裸体談義」
・・・きょうはバアを恋しがっていると思えばいち早く洋装になって酒をすすめるために、遂にその良人は、酒場へ行っても「バアの酒は馬鹿らしくて高くて、しかも話相手の女は教養がない。チップをおくのがもったいない」と述懐して早々家へ戻るようになったという実・・・ 宮本百合子 「三つの「女大学」」
出典:青空文庫