・・・ そこに大きなテーブルが置いてあって、水晶で造ったかと思われるようなびんには、燃えるような真っ赤なチューリップの花や、香りの高い、白いばらの花などがいけてありました。テーブルに向かって、ひげの白いじいさんが安楽いすに腰かけています。かた・・・ 小川未明 「青い時計台」
・・・去年の秋は神田の花屋で、チューリップと、ヒアシンスと、クロッカスとの球根を買って来て、自分で植えもし、堀り上げもしたので、この三つのものはよく知っていた。そのほかにまだグラジオラスの根やアネモネの根もずっと前に見た記憶があった。これに反して・・・ 寺田寅彦 「球根」
・・・茅ヶ崎駅の西の線路脇にチューリップばかり咲揃った畑が見えた。つい先日バラの苗やカンナの球根を注文するために目録を調べたときに所在をたしかめておいた某農園がここだと分かった。つまらない「発見」であるが、文字だけで得た知識に相当する実物にめぐり・・・ 寺田寅彦 「箱根熱海バス紀行」
今日などはもう随分暖い。昨夜一晩のうちに机の上のチューリップがすっかり咲き切って、白い木蓮かなどのように見える花弁の上に、黄色い花粉を沢山こぼしている。太い雌芯の先に濃くその花粉がついて、自然の営みをしているが、剪られた花・・・ 宮本百合子 「塵埃、空、花」
・・・ 対照「このチューリップは傑作だ。サティンのようにつやがある。」 そして、わきの紙をとって「一輪いくら? 一本五銭?」とかくと 咲 その鉛筆をとって「四本十銭とかく」「じゃあっちはいくら?」 赤い芍薬をさす「・・・ 宮本百合子 「生活の様式」
・・・と声をかけてチューリップの模様の襖のかげから出て来る男の姿を描いた。「お上り、随分思いがけない時……」 男の声が思いがけなくほんとうに思いがけなく二階から頭の真上におっこって来た。 妙にくねった形をした石の上に下駄を並べて階・・・ 宮本百合子 「芽生」
出典:青空文庫