・・・然し、その女のひとは、電車の隅々までよくとおる声を低めず、進駐軍のために日本語を教えていること、自分がアメリカに生れたというので大変よろこんで親切にしてくれること、チョコレートやお砂糖をどっさりくれることを話した。「そりゃ甘いチョコレートで・・・ 宮本百合子 「その源」
・・・ 女中の持って来たチョコレートと紅茶を千世子は立って自分で配りながら、 おきらいじゃあないでしょう? 笑いながらクリクリに刈った肇の頭の地の白く見えるのを上から見ながら云った。「この人はねえ、チョコレートのそこぬけな・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・ プラットフォームに入っては口もろくに利けないほど急いた気持になって持って来たチョコレートの折をわたしたりしわになった衿をなおしてやって居るともう発車の時になって仕舞った。 コトリと動き出して、京子の窓が三間ほど向うへ行った時千世子・・・ 宮本百合子 「千世子(二)」
出典:青空文庫