・・・……ピイ、チョコ、キイ、キコと鳴く、青い鳥だの、黄色な鳥だの、可愛らしい話もあったが、聞く内にハッと思ったのは、ある親島から支島へ、カヌウで渡った時、白熱の日の光に、藍の透通る、澄んで静かな波のひと処、たちまち濃い萌黄に色が変った。微風も一・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・ところが社員は恐る恐る刺を通じて早速部屋に通され、粛々如として恭やしく控えてると、やがてチョコチョコと現われたは少くも口髯ぐらい生やしてる相当年配の紳士と思いの外なる極めて無邪気な紅顔の美少年で、「私が森です」と挨拶された時は読売記者は呆気・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
青い、美しい空の下に、黒い煙の上がる、煙突の幾本か立った工場がありました。その工場の中では、飴チョコを製造していました。 製造された飴チョコは、小さな箱の中に入れられて、方々の町や、村や、また都会に向かって送られるのでありました。・・・ 小川未明 「飴チョコの天使」
・・・主人は小柄な風采の上らぬ人で、板場人や仲居に指図する声もひそびそと小さくて、使っている者を動かすよりもまず自分が先に立って働きたい性分らしく、絶えず不安な眼をしょぼつかせてチョコチョコ動き、律儀な小心者が最近水商売をはじめてうろたえているよ・・・ 織田作之助 「世相」
・・・そして、寺田屋をいつまでもこの夫のものにしておくためなら乾いた雑巾から血を絞りだすような苦労もいとわぬと、登勢の朝は奉公人よりも早かったが、しかし左器用の手に重い物さげてチョコチョコ歩く時の登勢の肩の下りぐあいには、どんなに苦労してもいつか・・・ 織田作之助 「螢」
・・・ やがて豹吉が南海通の方へ大股で歩き出すと、次郎と三郎は転げるようにしてチョコチョコついて来た。 南海通の波屋書房の二、三軒先き、千日前通へ出る手前の、もと出雲屋のあったところに、ハナヤという喫茶店が出来ていた。 ハナヤはもと千・・・ 織田作之助 「夜光虫」
・・・ そこからは弟達の玩具の通りな汽車の線路や、家や、私のお噺の国に住わせたい様な人が小さくチョコチョコと働いて居るのが見られた。 私があっけに取られて居る後から追い付いた叔父は私と並んでそののとっぽ先に腰をかけた。 けれ共私は、自・・・ 宮本百合子 「追憶」
・・・ 私は、紺がすりの元禄袖の着物に赤い小帯をチョコンとしめたまま、若し何処か戸じまりに粗漏な所があって、其処からでも入られたとあっては、ほんとに余り気が知れていやだと思って、故意と閉めたままになって居る家中の戸じまりを見て廻った。 湯・・・ 宮本百合子 「盗難」
・・・そして頭のとおいところで、ランチョンの中にあるアメチョコの甘さを考えて居た。 二十六日桑野にて、 天気は晴れて、のびかかった麦が、美くしい列になって見える、けれども北風が激しいので、一吹松林をそよがせながら、風が吹いて来ると、向・・・ 宮本百合子 「「禰宜様宮田」創作メモ」
出典:青空文庫